異議申し立てのコツ

交通事故オンライン後遺障害編

伊佐行政書士事務所
〒278-0051千葉県野田市七光台316-17
  1. 後遺症の等級認定に対する異議申し立て
  2. 異議申し立ての手続方法
  3. 異議申し立てを成功させるコツ
  4. 異議申し立て書の書き方
  5. 異議申し立ての趣旨の記載例
  6. 事例
  7. ~ある事故被害者の経験~
  8. むち打ち症の異議申し立てページへ

後遺症の等級認定に対する異議申し立て

後遺障害等級認定の結果に対して不服がある場合は、異議申し立てを行い、繰り返し認定審査を求める事ができます。単に不服を伝えるだけでは結果の変更は期待できませんが、不足している 情報を補うことにより認定等級が変更されることは決して珍しいことではありません。納得のいく等級でない場合は、簡単にあきらめることはせず、 異議申し立てをすべきかどうか検討しましょう。

異議申し立てをした方がよい場合

  • (1)診断書の記載が十分でない。診断が不適切。
  • (2)検査結果が記載されていない。検査が未実施あるいは検査方法が不適切。
  • (3)認定の条件を満たすことができない特別な事情がある。

困難だが、可能性はある場合

  • (1)治療実績が少ない。
  • (2)過去に同部位に同じ障害で認定を受けている。
  • (3)因果関係が認められない。
  • (4)症状が改善しつつあると診断された。
  • (5)示談が成立している。

申し立てを行う場合の負担は?

  • (1)時間・・・異議申し立ての手続きには3カ月から6ヶ月程度かかることが多いです。それだけ最終的な事故解決にも遅れがでます。
  • (2)費用・・・異議申し立ての手続き自体は無料ですが、診断書代や画像取得費用、郵便代がかかることが多いです。 1万円程度でできる場合が多いですが、検査や通院をして5万円程度かかる場合もあります。
  • (3)労力・・・効果的な異議申し立てを行うためには、専門知識が必要になります。そのための調査や相談、通院などの労力がかかります。

異議申し立ての手続方法

提出書類は?

異議申立ては書面により行います。「異議申立書」の用紙は保険会社で入手することができますので、それに異議申し立ての趣旨等を記入します。添付資料がある場合はいっしょに保険会社に提出します。 異議申し立ての趣旨欄には、何が不服で異議申し立てをするのかを書きます。例えば前回の認定理由中に自分の症状が正しく評価されていない部分がある場合などは、 それを指摘します。提出資料が不足していたために認定されなかったと考えられる場合は、新たな資料を提出し再度検討してほしい旨を記載するといいでしょう。

※添付資料・・・診断書や検査結果など。保険会社や医師がアドバイスをくれる場合もありますが、 的を射ていないケースも多いです。何が必要か慎重に検討しましょう。
  • ※一般的な提出書類
  • (1)異議申立書(必ず提出)
  • (2)診断書(必要に応じて提出)
  • (3)検査資料(必要に応じて提出)
  • (4)その他

異議申し立て書の記入例はこちら

申し立て先は?

申請書類は保険会社へ提出します。郵送または宅配便を利用するのが一般的です。事前認定の場合は加害者加入の任意保険会社へ、被害者請求の場合は加害者加入の自賠責保険会社となります。書類は保険会社から 損害保険料率算出機構へ送られますが、異議申し立ての審査は機構内の調査事務所とは別の、地区本部等で行なわれます。

申し立ての際の注意点は?

手続き自体はいたってシンプルなものですが、単に自覚症状や、後遺症による窮状を訴えるだけでは、新たな判断がされることは期待できません。 なぜ非該当だったのか、なぜその等級だったのか、理由を考えることが必要です。そしてそれを補う方法を考えます。それは新たな診断書であったり、 別の検査方法であったり、画像であったりします。それらすべてが必要となる場合もありますし、それでは補えないケースもあります。 異議申し立ては複数回行うことができますが、回数を重ねればよいというものではありませんので、的を得た対策を立てて臨みましょう。

異議申し立てを成功させるコツ

普通の人は異議申し立てのやり方など皆目見当がつきません。そのため身近な関係者である医師や保険会社担当者に頼ろうとしがちです。 しかし、中には詳しい人もいるのですが、大概は知識を持ち合わせていません。親切心から相談には乗ってくれるものの、 適切なアドバイスが得られないことが多いので、注意が必要です。被害者が自分で対策を考えられない場合は、経験豊富な行政書士などの専門家を頼ったほうがよいでしょう。

等級認定は「一定の障害が残っているという事実」の他にも、「事故と障害との因果関係」「障害が回復困難なものか」 といった点についても審査されますので、ここを意識して資料を整え、異議申し立てを行うようにしてください。全ての診断書、後遺障害診断書、 認定の結果通知理由などを検討した上で、総合的に判断していく事が必要となります。 具体的には診断書の記載内容が現在の症状を的確に表しているか、客観的な資料に不足はないかなどを検討し、それを補う方策を考えます。 医師に新たに検査をお願いしたり、診断書の作成をお願いするケースが多いです。

(1)障害が残っているという事実

後遺障害診断書等に、後遺症に関連する傷病名が記載されているかどうか、それに見合った治療がされているかどうかなど。 診断書の転帰欄に「治癒」と書かれていたために非該当とされたケースもあります。 最初の診断書に傷病名が書かれていても、後遺障害診断書に症状が書かれていなければ後遺症とは認められません。 診察時に医師とのコミュニケーションをしっかりとっておくことがコツとなります。

(2)事故と後遺障害の因果関係

その後遺症が事故前から存在していたものであったり、事故後の他の原因によってもたらされたものである場合は、因果関係は否定されます。

事故を契機に発症したかどうかという問題だけであれば、医学的な証拠がなくとも事故があったことと医師の診断を受けたことによって因果関係は 概ね認められるものです。例えば鎖骨を骨折して変形障害が残った場合は、「いつ骨折したか」を医学的に証明する必要はなく、事故当日に通院して鎖骨骨折と 診断されたという事実のみで因果関係は認められるでしょう。

医学的に事故と後遺症の結びつきを証明可能かどうかという問題になりますと、検査結果や医師の診断書等によって証明方法を考える 必要があります。例えば腰椎の圧迫骨折と診断された場合に、事故のあった日に通院しただけでは因果関係ありとは認められないことがあります。 椎体の圧迫骨折は、しばしば陳旧性のものも存在するからです。 変形障害として後遺障害が認められるためには、医学的に事故の時に圧迫骨折が生じたと説明できるか否かを検討しなければなりません。 こうした違いに気がつくことができるかというのも、異議申し立てを上手に行うコツです。

(3)障害が回復困難なものか

回復の見込みのある障害では、後遺障害として認定されることはありません。主治医の診断が重視されますが、 通説的な医学的見解が関係する場合もあります。偏った被害者意識は誤解を生じさせます。自らを戒め、主治医とのコミュニケーションを大切にしましょう。

(4)医師への頼み方も大切

医師に対して単に「異議申し立てをしたいので診断書を書いてください」と頼むのは、お勧めできる方法ではありません。この言い方では、ほとんどの場合 「後遺障害診断書と違うことは書けない」「同じことを少し強調して書くくらいしかできない」「あなた(被害者)のいっている自覚症状を 書き足すくらいしかできない」という返事をされるか、同じ内容の診断書を発行されるだけだからです。医師に追加で診断書をお願いするときは、 どのような医学的事項について記載をお願いしたいのか、具体的に示すことが大切です。当事務所では、この部分もしっかりとサポートしています。

積極的な対策を

「きちんとしたところで認定しているのだから、異議申し立てなんてしても無駄なのでは?」と考える方もいらっしゃいます。 確かに調査事務所では公平な認定が行われているはずですが、妥当な認定が受けられない原因は調査事務所にあるのではなく、 用意した後遺障害診断書等にあることが多いのです。ですから異議申し立ても「そちらの判断はおかしいから直してくれ」 というスタンスではいけません。「資料が足りませんでしたので、追加で提出します」という考え方をしてください。 「後遺障害診断書が悪かったのなら、医師が悪いのでは・・・」と思われる方もいらっしゃいますが、 医師は病気やけがを治療しますが、後遺障害等級認定の書類を書くことは専門的に習っているわけではありません。 こうした事情を理解したうえで対策を立てることが、良い結果を得るための近道といえるでしょう。

異議申し立て書の書き方

申請先会社名

事前認定の場合は任意保険会社、被害者請求の場合は自賠責保険会社の社名を書きます。部課まで書く必要はありません。

申立人

被害者本人による請求の場合は、被害者の氏名や連絡先、代理人による請求の場合は代理人の氏名と連絡先を書きます。 被害者が未成年者の場合は、父または母などの法定代理人の氏名を書きます。氏名の横に申立人の印鑑を押します。 印鑑は認印で構いません。

証明書番号等

被害者請求の場合は交通事故証明書を見て、自賠責保険の証券番号を書きます。事故年月日も交通事故証明書を見て記載します。 添付資料がある場合は書類名等を書きます。複数あって書ききれない場合は、異議申し立ての趣旨の欄に書いても構いません。

添付資料

異議申し立てには、前回認定で不足していた資料を提出することが有効です。この欄には、診断書・画像フィルムなど、 提出する追加資料を記載します。異議申し立てを成功させるため、認定されなかった理由を検証し、有用な情報の記載された資料を用意しましょう。

異議申し立ての趣旨の記載例

異議申し立ての趣旨欄の書き方には、特に決まりはありません。前回判断のどのような点について異議があるのかということを明確にすればよいのです。 ただし被害者の主観的な意見をいくら延々と述べても、そのことのみによって結果が変更されるということは期待できませんので、 客観的な資料を提出することに注力したほうがよいでしょう。欄内に書ききれない場合は、別紙に記載することも可能です。 別紙に書く場合は、割り印をするか、記名捺印をしておいた方がよいでしょう。

異議申し立ての趣旨(むち打ち症)
骨折・脱臼等の外傷性の異常所見は認め難く、後遺障害診断書上、自覚症状を裏付ける客観的な神経学的所見に乏しいことに加え、 その他症状経過治療状況等も勘案した結果、将来においても回復が困難と認められる障害とは捉え難いとの理由で非該当と判断されましたが、 次のような理由からこの判断に異議を申し立てます。

1.私は美容師をしておりますが、事故前は一日8時間問題なく仕事をしていました。ところが事故後、首の痛みと手のしびれのために仕事に支障を感じています。 そのため身体がもたず、今も勤務時間は4時間程度にしていただいています。

2.神経学的所見に乏しいとの指摘については、後遺障害診断書にスパーリングテスト(+)と記載されていることのほか、 ○○○、○○○○○の結果を提出します。

3.症状は1.のとおり現在も強く残っています。また、治療も医師の指示に従って行ってきたものです。 その医師が「症状は固定している」との診断をしているのですから、「将来においても回復が困難と認められる障害とは捉え難い」との判断は納得できません。
異議申し立ての趣旨(高次脳機能障害)
1.先般の申請により、高次脳機能障害として第9級に認定されましたが、申立人の症状は重く、日常生活に著しい支障を抱えています。 第9級は「一般就労を維持できるが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業持続力などに問題があるもの」と説明されていますが、 申立人は一般就労を維持できる状態ではありません。

2.実際に退院後始めたアルバイトも、ミスが多いという理由で解雇されています。

3.申立人の現況を説明するため、○○○○、○○○○、症状固定後に作成された診断書を提出いたします。

4.以上の資料により、より上位の等級に該当するとのご判断を求めます。
異議申し立ての趣旨(非器質性精神障害)
1.前回異議申し立てにより右手首骨折後の神経症状として第14級に認定されておりますが、私は事故以来日常的に気分が落ち込んだり、車に乗ると胸が苦しくなるため 余程のことがない限り車に乗らなくなったり、交通量の多い道路の歩道を歩いていると、不意に事故の時の記憶がよみがえったりする症状が続いており、 家に閉じこもりがちになっています。車が横転するほどの大事故で、私は一瞬死を覚悟しました。 私はこうした症状も事故が原因で起きたものと考えており、この点について再度後遺障害等級認定の判断をお願いします。

2.平成○○年○月○日から○月○日まで、○○メンタルクリニックに通院しました。外傷性神経症、PTSDと診断されておりますので、診断書を提出します。

3.補足資料として○○○○、○○○○を提出します。

4.以上の資料により、より上位の等級に該当するとのご判断を求めます。

事例

機能障害

部  位変更内容
12→10 左下腿骨折後の足関節機能障害について、12級7号の認定を変更し、10級11号とした事例
非→12 右肩関節部疼痛につき後遺障害に該当しないとした判断を変更し、「1上肢の3大関節の機能に障害を残すもの」12級6号とした事例
非→12 右肩部に骨折等の器質的損傷は認められないとした結論を変更し、機能障害の12級6号とした事例
12→10 右肩関節の可動域低下及び同部の疼痛について、機能障害の12級6号とした結論を変更し、機能障害の10級10号とした事例
肩、上肢 10+12 右肩の関節可動域制限10級10号認定に対し、右上肢の末梢神経障害12級12号もありと認め、併合9級とした事例
手関節 非→12 右手関節の可動域低下について、後遺障害には該当しないとした結論を変更し、可動範囲は左手関節の3/4に制限されていることから、12級6号とした事例
手指 非→10 左母指の機能障害は後遺障害に該当しないとした結論を変更し、左母指の骨折が認められ可動域制限もあることから、左母指の用を廃したものとして10級7号とした事例
10→8 右膝関節の機能障害について、10級11号の認定に対し、総合的に関節の用を廃したものに該当するとして、8級7号とした事例
10→8 右膝関節の動揺関節について、10級11号とした認定を変更し、8級7号に該当するとした事例
膝関節 12→10 左膝関節の機能障害について、12級7号と認定したが、「関節の機能に著しい障害を残すもの」として、10級11号を認めた事例

精神・神経の障害

部  位変更内容
RSD、下肢 12→9 左下肢痛の疼痛・冷感等について、12級12号の認定を変更し、9級10号に該当するとした事例
TFCC損傷 手関節の三角線維軟骨複合体(TFCC)による神経障害について、非該当の結論に対し、神経障害12級12号とした事例
14→12 足関節の痛みを併合14級とした認定を変更し、「局部に頑固な神経症状を残すもの」と、12級12号とした事例
非→12 右足関節捻挫後の運動時痛に対して、非該当とした判断を変更し、レントゲンにより他覚的に神経系統の障害が証明されるとして、12級12号とした事例
非→14 左足底部疼痛、しびれ感等の症状が後遺障害に該当しないとした判断を変更し、外傷との間に相当因果関係を認め、14級10号とした事例
足、踵 14→12 踵立方関節部を中心とした疼痛等について14級10号とした認定を変更し、レントゲンにより疼痛の原因が認められると、12級12号とした事例
足関節 非→12 右足関節の疼痛及び背屈制限について、非該当の結論を変更し、神経障害の12級とした事例
足関節 14→12 左足関節脱臼骨折後の同部の機能障害は非該当、疼痛について14級10号の認定に対し、12級12号とした事例
下肢 14→7 左下肢麻痺等の訴えを14級10号とした認定を変更し、神経系統の障害として7級4号とした事例
下肢 14→12 右大腿部しびれ感、疼痛及び右足関節内部のしびれ等の症状につき、それぞれ14級10号、併合14級とした認定を変更し、右大腿部の神経障害は12級12号に該当、14級10号との併合12級とした事例
非→14 左肩関節の疼痛について非該当との結論に対し、受傷後に残存した症状を医学的に推定可能な症状と評価できることから14級10号とした事例
14→12 肩関節打撲による同部の神経障害について、他覚的所見なく14級10号とした認定を変更し、12級12号とした事例
14→12 左肩部の神経障害について14級10号とした認定を変更し、他覚的所見を伴った神経症状と捉えるのが妥当であるとして、12級12号とした事例
14→12 右肩痛について14級10号とした認定を変更し、骨折部には変形がないものの、他覚的所見を伴った神経障害として、12級12号に該当するとした事例
下腿 非→14 脛骨骨折後の下腿前面の疼痛等の症状について医学的にその存在が推定されることから、非該当とした判断を変更して、14級10号とした事例
頚髄 7→5 頚髄損傷による麻痺や疼痛等の症状について、神経症状7級4号の認定を変更して5級2号を認定した事例
頚髄損傷 非→9 左上下肢しびれ、左上下肢知覚低下等の神経症状に対し、非該当とした判断を変更し、事故と頚髄損傷との間に相当因果関係を認め、9級10号とした事例
頚部 非→14 頚部痛につき、非該当との結論に対し、他覚的所見は認められないが、受傷部位等から第14級10号を認めた事例
頚部 非→12 頚椎捻挫に起因する右上肢の疼痛、シビレ感等の神経症状につき後遺障害等級非該当との結論に対して、事故が誘因となって発現した末梢神経障害ととらえられるとして、12級12号とした事例
頚部 非→14 頚椎捻挫等による頚部痛、肩が重い等の神経症状に対し、非該当とした結論を変更し、症状の持続性があり医学的にも説明可能なものと、14級10号とした事例
頚部 非→14 前回事故の頚部症状で14級10号の既存障害があることから、今回の頚椎捻挫による神経障害は加重障害にあたらず非該当とした結論を変更し、14級10号とした事例
頚部 非→14 頚部捻挫による頚部の痛み、手のしびれ等の症状に対し、非該当とした結論を変更し、医学的に症状の存在を推定可能と認め、14級10号とした事例
頚部 14→12 頚部から両上肢にかけての神経症状について、14級10号の認定を変更し、12級12号とした事例
頚部 非→14 左頚部から左肩甲間部痛に対し、非該当とした判断を変更し、スパーリングテストの陽性所見があり、症状が継続していたものと捉え、14級10号とした事例
頚部 非→14 被害者の頭部打撲及び頚椎捻挫に伴う頚部痛の訴えについて、後遺障害に該当しないとする判断を変更して、14級10号とした事例
頚部 非→14 頚部捻挫等による両上肢のしびれ、頭痛等について、非該当とした判断を変更し、医学的に推定可能な神経障害として14級10号とした事例
頚部 非→14 頚椎捻挫による頚部痛、頭痛、耳鳴り等の神経症状に対し、非該当とした判断を変更し、医学的に推定可能な障害として、14級10号とした事例
頚部 非→14 頭痛、頚部痛を非該当とした判断を変更し、医学的に説明可能な神経症状が残存しているものと認め、14級10号とした事例
頚部 非→14 頚部痛、頚部圧迫感・つっぱり感について非該当とした判断を変更し、医学的に説明可能として、「局部に神経症状を残すもの」14級10号とした事例
頚部 14→12 頚部の神経障害14級10号、腰部の神経障害14級10号とした認定を変更し、頚部神経障害については他覚的に証明可能と認められることから12級12号とし、腰部神経障害14級10号と併せて、併合12級とした事例
頚部、上肢 14→12 頚椎捻挫に起因する頚部痛や左上肢のしびれによる14級10号の認定に対し、症状の存在が他覚的に証明されたものと認め、12級12号とした事例
頚部、上肢 非→14 後頚部痛及び左上肢痛について非該当とした認定に対し、神経障害14級を認めた事例
頚部ヘルニア 14→12 後頚部痛、右手しびれ等の神経症状に対して14級10号とした認定を変更し、脊髄等への圧迫が認められたことから12級12号とした事例
高次脳機能障害 7→5 高次脳機能障害について、7級4号の認定に対し、一般人に比較して1/4程度の労働能力しか残されていない程度に至っているとし、5級2号とした事例
高次脳機能障害 5→3 高次脳機能障害につき、症状の増悪は否定できないとして、5級2号の認定を変更し、3級3号とした事例
高次脳機能障害 7→5 高次脳機能障害について、一旦安定した症状がその後増悪しているとして、7級4号の認定を変更し、5級2号とした事例
高次脳機能障害 非→9 高次脳機能障害につき、因果関係なしとした判断を変更し、脳機能の障害が発生したことは否定できないとして9級10号に該当するとした事例
股関節 14→12 股関節痛14級10号、機能障害非該当の認定に対し、股関節機能障害12級7号を認めた事例
股関節 非→14 左股関節痛を非該当とした判断を変更し、常時痛ありと認め、14級10号とした事例
股関節 14→12 事故と股関節部痛との因果関係を否定した結論を変更し、病態・治療経過等から外傷との因果関係を認め、12級12号を認定した事例
上肢 14→12 上肢の神経障害の14級10号の認定に対し、他覚的異常所見が認められるとし、12級12号とした事例
上肢 非→14 被害者の左手痛の症状について、非該当の判断を変更し、受傷態様や治療経過を勘案し、14級10号に該当するとした事例
脊柱・上下肢 6→4 神経障害7級4号、脊柱障害11級7号として併合6級との認定に対し、神経障害につき神経系統の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務にしか服し得ないとして5級2号を認め、併合4級とした事例
手根 非→14 レントゲン画像により、右手根部の骨折が認められ、疼痛が推定されることから非該当の結論を変更し、14級10号とした事例
手指 14→12 手指の巧緻性低下について、神経症状14級10号の認定に対し、右手指の神経症状の存在が医学的に証明されたものと認め12級12号とした事例
頭部 非→14 頭部外傷後の神経・精神障害を非該当とした認定に対し、自覚症状が医学的に推定されるものとして14級10号を認めた事例
同部位の機能+神経 12→併11 足関節の疼痛は同関節の機能障害に含まれるとした12級7号のみの認定を変更し、別途、12級12号の神経症状を認定して併合11級とした事例
認知症 加重 認知症の進行について因果関係なしとした判断を変更し、第1級1号に該当するとした事例
非→14 左膝挫傷による左膝痛について非該当とした判断を変更し、受傷部位に疼痛を残すものと捉えられるとして、14級10号とした事例
14→12 右膝障害につき14級10号とした認定を変更し、画像から他覚的に証明可能と判断して12級12号とした事例
膝関節 12→10 右膝関節疼痛の12級認定につき、異議申し立てにより10級とした事例
14→12 右肘関節部の疼痛について、14級10号との認定を変更し、12級12号とした事例
耳鳴 非→12 耳鳴に対し、非該当とした判断を変更し、著しい耳鳴が残存しているものと捉え、12級相当とした事例
腰部 腰痛について非該当とした判断を変更し、他覚的所見はないが、症状の継続性が認められ、医学的に説明可能な神経症状として、14級10号とした事例
抑うつ 非→14 不眠、抑うつ気分等の精神症状について、非該当の判断を変更し、非器質性精神障害として捉え、14級10号とした事例

その他

部  位変更内容
重過失減額2割→なし 赤信号で横断し相手車両と衝突した自転車の被害者に2割の重過失の適用とした結論を変更し、重過失減額なしとした事例
重過失減額3割→2割 違法駐車していた大型貨物自動車に、後方から進行してきた自動二輪車が追突し運転者が死亡した事故について、30%の重過失減額とした結論を変更し、20%減額とした事例
重過失減額5割→3割 信号機の表示が赤対青の交差点事故で、重過失減額50%を変更し30%とした事例
重過失減額無責→5割 被害車のセンターオーバーによる死亡事故につき、対向の相手車を無責とした結論を変更し、重過失減額50%とした事例
重過失減額2割→なし 駐車中のセミトレーラに衝突した普通貨物自動車の運転者が負傷した事故に対し、運転者に重大な過失があったとして2割の減額とした結論を変更し、重過失減額なしとした事例
因果関係因果関係なし→あり 受傷前、要介護2の被害者(乙)が、事故後に入院加療中「急性心不全」で死亡したことについて、受傷と死亡との間に相当因果関係を認めないとした結論を変更し、死亡による損害について自賠責保険の支払い対象とした事例

~ある事故被害者の経験~

事故に遭う

6時ちょうどに目覚ましが鳴った。昨日も夜10時まで残業だったので、睡眠時間は5時間程しか取れていない。目覚めはよい方だが、布団をでるのに5分もかかってしまった。 疲れが溜まってきているようだ。一日中車の運転をしている仕事なので、睡眠不足は辛いのだが、仕事は通常勤務で消化できるペースをはるかに上回っている。 自己管理で睡眠時間を確保できる状態ではない。休めば同僚に多大な迷惑をかける事になるので、体力の続く限り働き続けるしかない。 だが、その代わり世間並みの給料はもらっている。将来はともかく、現状、家族3人で暮らしてゆくには十分な金額だ。この生活は壊したくない。 トーストとコーヒーという簡単な朝食を済ませ、7時前に家をでる。車は3年前に新車で買ったマーチだ。来月車検に出す予定だ。 駐車場を出ると朝陽がまぶしく目に飛び込んでくる。秋の早朝の空気は冷たく、よく澄んでいる。気持ちにゆとりがあれば外で体操でもしてから出かけたいところだ。 最初の交差点を曲がったところで、朝練に向かう中学生のグループを追い越した。揃いの紺のトレーニングウェアがよく似合っている。テニス部だろうか。 いつもこの場所で追い越す女の子たちだ。夏はかなり練習をしたのだろう。皆、真っ黒に日焼けしている。そこから2~3分で子供の通う小学校の前を通過する。 学校前の横断歩道では、当番の母親たちが黄色い旗をもって手持無沙汰にしていた。まだ子供たちが登校してくる時間までには少しあるようだ。一人の子供が横断歩道を渡ろうとしている。 黄色い旗をもった母親が旗で制して信号の押しボタンを押す。あの母親の顔には見覚えがある。確か子供の友達のお母さんだ。学校の行事で何度か挨拶をされた記憶がある。名前は確か・・・。 信号が黄色に変わったので横断歩道の手前でゆっくりと止まった。母親と目が合い、お互いに軽く会釈を交わした。黒いランドセルを背負った背の高い男の子が小走りで横断歩道を渡りはじめる。 中学生と言ってもわからないくらい背の高い子だな。突然母親の顔が険しくなり、何かを叫んだ。両手を前に差し出し、何かを制止するように手のひらを振っている。異常な感覚が全身に走った。 よくないことが起こる感覚が。

霧が日に晒されて徐々に消えていくように、遠のいた意識が徐々に戻ってきたような感覚があった。バンッという音と、激しい衝撃を受けたことだけは憶えている。 事故に遭ったのだ。黄色い旗をもった母親がこちらを覗き込んでいる。三沢さんだったかな。確かそうだ。背の高い男の子は無事渡ったのだろうか。 巻き込んでいなければいいが。全身の感覚がぼんやりしている。身体中に包帯でも巻かれているようだ。車から降りるべきだろうか。 手をドアノブにかけて引いてみたが、ドアは開かない。ドアロックはしていないはずだが。車体が歪んでいるのかもしれないな。 買ったばかりの車なのに。車の前に人が倒れている様子はない。横にもいない。きっと背の高い男の子は無事だったのだろう。 三沢さんはこちらを心配そうに覗き込んでいる。手を挙げて大丈夫というサインを送る。これは仕事は無理かな。早く会社に連絡しないと。 気分が悪いのでシートに座ったまま救急車を待った。誰かが呼んでいるだろう。たぶん。男が運転席の窓からこちらを覗いている。 加害者だろうか。痩せて目がくぼんでいて、無精ひげがすごい。もしかしてひげを蓄えているのか?それならばもう少し揃えればいいのに。朝なのに疲れきった顔をしている。 すみません。大丈夫ですか、と言っていたので、おそらく加害者に間違いないだろう。次に運転席の窓からこちらを覗きこんだのは、救急隊員だった。大丈夫ですか、と声をかけてくる。 口を利く元気がなかったが、何度も声をかけてくるので、仕方なく、手を挙げうなずく。意識の有無でも確認しているのだろう。 今からドアを開けて運び出しますといってから、外側からドアが開けられた。ミシミシと軋んだ音がする。やはり車体が歪んでいるのだろう。 ストレッチャーで救急車に乗せられ、そのまま病院へ運ばれた。救急車は初めてだな。まさか自分が乗る時が来るなんてな。車内で揺さぶられているとき、徐々に身体の感覚が戻ってくるような気がした。 かたく巻きつけられた包帯が解かれるように。少しずつ、首や肩や肘や、あらゆる部分が悲鳴を上げ始めた。

レントゲン撮影の後、ベッドが十個ほど並べられた広い部屋に寝かされていた。医師や看護師が慌ただしく行き来している。 隅の方では中年の女性が苦しそうなうめき声をあげていて、看護師に励まされている。搬送された人間が一時的に待たされる部屋なのだろう。しばらく待っていると妻が入ってきた。やや青ざめた顔をしている。
「大丈夫?」
「ああ、あちこち痛むけど、骨が折れたとかいうわけではないみたいだ。まだ先生に話を聞いていない。」
「わかった。ちょっと聞いてくる。」
妻がそういって部屋を出て行こうとしたときに、医師に声をかけられた。
「内田さんのご家族の方ですね?」
「はい。」
「交通事故ですか。大変でしたね。レントゲンの結果が出ましたので、ちょっといいですか。」
「お願いします。」
「かなりひどい追突事故だったと聞いています。全身を打っておられる可能性がありましたので、頚椎や腰の骨などのほか、ろっ骨などもレントゲンで確認しました。 頭部もCTを撮っています。結果、明らかな骨折は認められませんでした。脳の以上も特にないようです。ご主人、ご自分ではご気分はいかがですか?」
「さっきまで頭がぼうっとしていたのですが、今は何ともないようです。身体はあちこちが痛みます。特に首と肩が痛いです。」
「そうですか。頭がぼうっとしていたのは、軽い脳しんとうだと思います。歩けそうですか?」
聞かれて、ベッドから起き上がり、少し歩いてみる。全く問題はない。 「大丈夫なようですね。衝撃が大きかったので、ご希望があれば一晩入院して様子を見られてもいいですが、ご家族がそばにいらっしゃるのでしたら、入院する必要はありません。今日はお帰りになって、また明日外来で整形外科にかかってくださればいいでしょう。どうされますか?」
「はい、帰って様子を見たいと思います。」
「結構です。身体の痛みはこれから強くなってくる可能性はあります。軽い頭痛やめまいが出る事もあると思いますが、あまり酷いようでしたら、すぐに来てください。それではこれで。」
医師が足早に去った後、妻と顔を見合わせた。妻の表情からは、取り敢えず大した事はないようなのでよかったと、安堵の表情が読み取れた。

タクシーで自宅へ戻ると、先ず会社へ電話をした。事故を知った時点で妻が一度連絡はしておいてくれたのだが、大したことはなかったと知らせる必要がある。 いつから戻れそうかと聞かれたが、まだわからない。取り敢えず明日また病院へ行くことになっているので、その時に先生に聞いてみるとだけ伝えておいた。 急に人が休むとシフトの変更が大変なことはよくわかっている。一日も早く戻らなければ。内沢は事務機器の販売会社にもう10年以上勤めている。 毎朝自家用車で営業所へ出勤し、営業車に乗り換える。得意先を日に何社か回り、一日の走行距離は2~300キロにもなる。ほとんど運転しっぱなしだ。何十キロもある機器を車に乗せる事もある。 身体に痛みがあっては、満足に勤まらない仕事だ。それだけに日ごろから健康管理には気を使っていて、休日はジョギングなどの運動を欠かさないようにしていた。 今のところ収入は安定しているが、会社の業績は年々厳しくなっている。身体を壊した人間を置いておく余裕がないのはわかっている。 体調を崩した何人かの同僚は皆退職を余儀なくされている。今日と明日は仕方ないが、明後日からは出勤しなければ。そう考えていた。 翌日、目が覚めると首と肩の痛みがひどくなっていることに気がついた。腰にも違和感がある。しかし頭痛やめまいなどは感じない。 頭はすっきりしている。起き上がろうと首を曲げたところ、激痛を感じ、腕にしびれが走った。やはり相当強く打ったのだなと、あらためて思った。 身体中が運動をしすぎて筋肉痛になったような、そんな痛みもあった。洗面台へ行って歯を磨く。棚の歯ブラシに手を伸ばしたとたん、肩に強い痛みがはしり、思わず呻いてしまう。 こんな痛みがあったら仕事にならないなという思いが頭をよぎる。仕事を休んだら給料は補償してもらえるのだろうか。会社はどれくらいの休みを認めてくれるだろう?ふと、仕事を辞めていった同僚たちの顔が浮かんだ。 今頃はどんな仕事をしているのだろう。40歳過ぎでは再就職は簡単ではなかったろうに。

病院へは午後から行くことにした。外来で整形外科を受診する。医師は昨日の検査結果を見て、今の症状について質問してきた。症状を話すとパソコンに忙しそうに入力している。 シャツを脱いで肩を見せるように言われた。押したり動かしたりしたうえで
「まあ大丈夫でしょう。昨日の今日ですので症状にはこれから変化があるかもしれませんが、まずは様子見ですね。痛み止めの薬と貼り薬を出しておきますので、来週にでもまた来てください。」
「先生、仕事は始めても構わないでしょうか。」
「どんなお仕事ですか」
「はい、営業職で一日中車に乗ります。首や肩が痛いと正直辛いですが、あまり休むわけにもいきませんので。」
「基本的に打撲や捻挫程度の怪我と見受けられますので、医師として就労を禁止する考えはありません。ご自身で仕事ができそうであれば、やっていただいて構いませんよ。 ただし最初は安静にすることが早期回復には重要なことですので、症状が増強するようなお仕事はお勧めはできません。」
「そうですか。わかりました。」
結局は仕事をするかしないかは本人次第ということのようだ。次の診察日まで仕事を休むわけにはいかないので、明日から出勤したほうがいいだろう。

翌日出勤したが、気分が悪くなってきたことと痛みに耐えられずに早退してしまい、1週間ほど休んだ。しかし復帰しても以前のようには働けなかった。 長時間の運転に耐えられないのだ。営業に出かけても腰の痛みに耐えられず、運転の途中で休憩をしなければならない状況になってしまい、1日の訪問予定数をこなすことができなくなってしまった。 運転中に気分が悪くなることもある。何とかスケジュールを調整してしのいでいるが、会社にはかなり迷惑をかけている。 しかし体調不良を言い訳に、これ以上の迷惑をかければ、ちゃんと治るまで戻ってくるなといわれかねない。そうなれば職を失うことになるだろう。それだけは絶対に避けなければならない。 できれば治療に専念したいところだが、身体をだましだまし仕事を続けていくしかないのだ。

3ヶ月目

明日で事故から3ヶ月になる。首の痛み、肩の痛み、腰の痛みが残っている。その他の身体全体に感じていた痛みは奇麗になくなった。 ただ、それらの痛みが徐々に腰や首や肩へ移動していったように、局部の痛みが鮮明になっていくような気がした。 首の痛みのため安全確認がし辛い。運転していると腰の痛みが我慢できないほどに強くなってくる。 仕事にさし障るので、痛みを和らげる方法はないかと医師に相談したが、これといった方法はないらしく、薬と湿布を処方されるのみだった。 当初電気療法もやってもらっていたが、効果が感じられないことと、仕事が忙しくて通院する時間を確保できないことから、2ヶ月ほどでやめてしまった。 最初のころは病院に行くためということで、週に一日程度会社を早退させてもらっていたのだが、包帯を巻いているわけでもなく、怪我をしていることがわかりにくいことから、 他人にこの辛さはわからない。上司や同僚から「具合はどうだ」と聞かれるたびに、いつまで痛がっているんだといわれているような気がして、負い目を感じてしまうということもあった。 勤務時間の半分程度は車での移動時間に使っている。全く仕事にならないわけではないが、長時間運転をすることの苦痛は大きい。首の後ろから肩にかけて、 広い範囲が石のように凝り固まる。肩を回したり、手で揉み解したくなるが、運転中では何もできない。信号ごとに腰の位置をずらし、手でマッサージをするが気休めにしかならない。 シートに固定された腰は重い。車から降りるまでは、ひたすら無抵抗で耐えるしかない。痛みは疲れとさらなる痛みを呼び、夜、帰社するころにはくたくたになっている。 帰宅後はすぐに食事をし、ゆっくり風呂に入り、寝る。疲労感が強く、仕事上のミスも気になっている。今まではなかったことだが、顧客からの頼まれごとを忘れたり、社内の提出書類の期限を忘れて催促されたりということが何度かあった。 仕事に追われて余裕がなくなっていることが原因かと思っている。

久しぶりに相手の保険会社の担当者から電話があった。野口という男だ。言葉は丁寧なのだが、話し方に人を見下したようなところがあり、好きになれない。 「内田さん、お久しぶりです。日本海上損保の野口です。お世話になっております。今日は今後のことについてそろそろお話をさせていただこうかと思いまして、お電話を差し上げました。 いかがでしょう。事故から3ヶ月ほど経過いたしましたが、お怪我の方は快方に向かわれていますか。」
「いえ、それが首や腰の痛みが取れなくて、まだ通院しているんですよ。」
「そうですか、それは大変ですね。お仕事に支障もおありでしょうね。」
「そうなんです。一日中車の運転をしているものですから、かなりこたえています。」
「治療をされていていかがでしょう。効果の方は実感されていらっしゃいますか?」
「治療するたびに目に見えるような効果はありませんが、先生も少しずつよくなっていくものだから、あせらずに通院するようにと言われています。」
「そうでしょうね。それではまだしばらく治療を続けられ、様子を見ていただくということでよろしいでしょうか?」
「ええ、そのようにお願いします。」
単なる経過の確認の電話だったのだろうが、野口の話し方は何か人を疑っていて、嘘を探り出そうとしているような、そんな口調なのだ。いやな気分だ。

6ヶ月目 ~治療費の打ち切りと後遺障害診断書

4ヶ月目位からどうにも腰の痛みが我慢できなくなり、週に1~2回だが整骨院に通い始めていた。野口に確認したところ、それは構わないが、もう事故から4ヶ月も経っているし、 本来は医師の許可が必要だが、今回は許可なしでも特別にお認めしますので、2ヶ月に限定してくれないかということだった。なぜそのようなことを言うのかわからなかったが、 そういうものなのかと思い、承諾した。治療費は病院と同じように保険会社が直接払ってくれる。整骨院は夜遅くまでやっているところを探して、仕事帰りに寄るようにしていた。 それでも1~2時間一人だけ早めに退社する必要があるので、周りには気を使った。このころには気力だけではどうにもならず、マッサージを受けて痛みをやわらげないと、 翌日の仕事がまともにできなくなるところまできていた。今までの無理がたたったのかも知れない。整骨院に行っても1~2日よくなった気がするだけで、また痛みは増してくる。 こんな状況がいつまで続くのか心配していたところへ、野口から電話がかかってきた。
「内田さん、その後、お加減はいかがですか?」
「よくないですね。治療をしながら何とか仕事を続けているような状態です。」
「そうですか。お辛い状態なのですね。ところで、もうそろそろ事故から6ヶ月が経過します。一般にむちうち症の被害者様の治療はこれで打ち切りとさせていただいております。 整骨院の方も当初のお約束とおり、2ヶ月分は治療費をお支払いして参りました。今月末で先生に後遺障害診断書を書いていただいてください。」
「これで治療は終わりにしないといけないのですか?」
「はい、怪我の後に痛みが残った方は、半年程度で後遺症の認定を受けていただくようになります。たとえば痛みが5年続いたとしても、判例でもその分の治療費が全額認められるわけではありません。 半年くらいで後遺障害の認定を受けていただき、認定されれば後遺症分の賠償金が支払われますので、治療を続けたい方はその中から治療費を出していただくようになります。」
まだ痛みがあるので治療を終わらせたくはないが、そういうものなら仕方がないか。確かに治療を受けてもすぐに戻ってしまうし、治療効果は限定的なのかもしれない。 治療をしないと身体は辛いが、治療に通う時間を確保することにも、いい加減嫌気がさしている。野口のいうとおり治療は今月末までとし、医師に後遺障害診断書を書いてもらうことにした。用紙は送ってくれるとのことだった。  1週間後、診断書の用紙が届いたので医師に記入をお願いした。 「わかりました。それでは診断書は書いておきます。書くのに2週間ほどかかります。書き終わりましたら保険会社へ郵送しますが、それでよろしいですね?」
「はい、お願いします。」
野口によれば、認定結果は1~2ヶ月でわかるだろうとのことだった。1~2ヶ月後、この痛みは楽になっているのだろうか。会社の業績はずっと思わしくない。 不景気のせいで顧客からの発注は減り続けており今年は慰安旅行も中止となった。上司からの圧力も強くなり、成績が落ちると無理難題を押し付けられる。 いくら残業をしても残業代はわずかしか認められない。それに嫌気がさしてやめていった若者もいる。ボーナスも期待できまい。ここで身体を壊せば、ここぞとばかりに退職を勧められよう。 自分の年齢では今の給料よりいいところへ再就職などできようはずもない。何が何でも辞めるわけにはいかないのだ。

しかし、その日はすぐにやってきた。 症状固定とされてから丁度一週間後の朝、首と腰の痛みで起きるのが辛いのと、高熱が出たため、会社を休んだ。高熱は4日間続いた。事故でかかっていた整形外科に行ったが、 はっきりとした原因はわからない。事故の症状のせいで、過労で熱が出ている可能性もあるということだった。その後も微熱が一週間続き、会社に出勤できたのは10日後だった。久しぶりに出社した日に、上司にあいさつに行くと、「話がある。」
と告げられた。 「身体の方は大丈夫か?完全に治ったか?」
「はい、もう熱も下がりましたので大丈夫だと思います。」
「むち打ちの方はどうなんだ。完治したのか?」
「ええ、完治とまではいかないのですが、仕事には影響ないです。」
「そんなことはないんじゃないか?時々早退もしているし、整骨院にも通っているのだろう?」
「ここのところ、取引先からのクレームも何件かあった。致命的なものではなかったけどね。」
「申し訳ございません。」
「どうだ、完治するまで休まないか?会社としても怪我をしている人間に長時間労働をさせるわけにはいかないんだ。」
「安全管理の面からも、怪我が治っていない人を働かせるわけにはいかないんだよ。わかるね?」
「はい。ですが今では少し痛むだけですので本当に仕事に影響はないんです。」
「そうはいってもね。今までずっと通院していた人間が、高熱を出して10日も休んだのに、身体は大丈夫とは簡単に信じるわけにはいかないんだよ。俺の立場もわかるね?」
「ええ。」
「どうしても復帰したければ、医師に証明書をもらってきてくれ。8時間の運転でも支障はないという証明書を。その上で早退や通院がないということであれば復職を認めようじゃないか。それまでは休んでもらう。それが社の方針だ。わかるね?」
「わかりました。」
これははっきり言えば辞めてもらいたいといっているのと同じだ。辞めていった他の同僚の話を聞いているので自分にはわかる。もう会社には戻れないだろう。腹をくくる時が来たようだ。

8ヶ月目 ~非該当の通知

保険会社より封書が届いた。開けてみると次のような文書が入っていた。 <結論>
自賠責保険における後遺障害には該当しないものと判断します。
<理由>
1.頚部捻挫後の「項頚部痛、肩こり」等の症状については、提出の頚部画像上、本件事故による骨折等の器質的損傷は認められず、後遺障害診断書上、症状を裏付ける客観的な医学的所見も乏しく、 将来においても回復が困難と見込まれる障害とは捉え難いことから、自賠責保険における後遺障害には該当しないものと判断します。
2.腰部捻挫後の腰痛等の症状については、提出の画像上、本件事故による骨折等の器質的損傷は認められず、後遺障害診断書上、症状を裏付ける客観的な医学的所見も乏しく、 将来においても回復が困難と見込まれる障害とは捉え難いことから、自賠責保険における後遺障害には該当しないものと判断します。

結果は非該当とのことだった。納得がいかない。なぜ、これだけ痛みが残っているのに、しかも治療を打ち切るような形で後遺障害の認定を受けたというのに、 なぜ、認定されないのだろう。認定されないということはどういうことなのだろう。慰謝料などは払われないのだろうか。  あれこれと思い悩んでいると、数日後に野口から電話があった。
「後遺障害は非該当という結果となりました。ご不満であれば異議を申し立てることもできますが、かなり難しいと思います。非該当とされたということは、裏を返せば、 この痛みは長期間続くことはなく、そのうちによくなるという判断がされたということでもありますので、あまり心配なさらなくても大丈夫だと思いますよ。」
「野口さん、そうはいいますが、今でも仕事に支障があるくらい痛みが続いているんですよ。治療もできず、後遺症の補償も認められないというのは酷いじゃありませんか。 せめてあと2~3ヶ月は治療を続けたいので、その分の治療費くらいは持ってもらえるんでしょうね?」
「申し訳ございませんが、症状固定後の治療費は一切お支払いできない決まりになっております。治療を続けられる場合は、保険証を使って、自費で通院していただくようになります。」
「事故で怪我をしたのに、なぜ、自費で治療しなければいけないのですか?少し我慢すればいい程度でしたらこんなことは言いませんよ。仕事に支障があって、ミスが出るほどに辛いんですよ。そういう場合でも自費で治療するしかないのですか?」
「今までに通院された分の慰謝料も出ますので、みなさんそこから治療費を出していただくようになります。症状固定後の治療費は、判例でも損害賠償の対象とはされていないのです。 内田さんにだけお支払いするというわけにはいかないんですよ。この後私どもにできる事といえば、いままでの通院分の慰謝料をお支払いすることだけしかないのです。後日書類をお送りしますので、ご検討いただけますか。」
野口はそういって、強引に話を打ち切った。

数日後、保険会社から損害賠償額の通知が届いた。内容はすでに支払い済みの治療費、交通費、休業損害等を差し引いて、慰謝料として37万円を支払うというものだった。 免責証書も一緒に入っている。これにサインすれば慰謝料が支払われてすべて終わりとなる。
「37万円・・・。」
これが多いのか少ないのか、皆目見当がつかない。小さな金額ではないが、6ヶ月間苦しんで、これからも痛みに耐えていかなければならないことの慰謝料としては、どうなのだろう。 今まで忙しさにかまけて考えたこともなかったが、慰謝料の相場について調べてみることにした。先ずはインターネットで検索してみる。様々なホームページが出てきた。 いくつか読んでみると慰謝料の計算方法も何となくわかってきた。どうも自分が提示されている37万円という金額は、自賠責保険の基準によるもののようだ。 弁護士基準では大体90万円くらいになるようだ。しかし本当に90万円も支払われるのだろうか?裁判までする気はないし、普通の相場というのはいくらくらいなのだろう。他の被害者は一体いくらくらいで示談しているのだろう?

異議申し立て ~医師への相談

いろいろと調べてみた結果、後遺症の認定に対して異議申し立てをしてみることにした。調べたところによると異議申し立て書と、医学的所見をかいた診断書、 MRIの画像が必要であるように思えた。異議申立書は野口に言って送ってくれるように頼んだ。MRIと診断書は医師に頼まなければならない。どう切り出せばよいのか悩んだが、取り敢えずありのままを話し、相談してみることにした。 次の土曜日に病院に行った。広い受付には若い女性事務員が二人座っている。診察券と保険証を出す。久しぶりに来たので「今日はどうされましたか」と聞かれた。
「交通事故の診断書を書いていただきたくて伺ったのですが。」
「わかりました。診断書の用紙はお持ちですか。」
「いいえ。」
「当院の様式で構いませんか。」
「はい。」
「事故の時の診断書ですね。傷病名の記載があれば大丈夫ですか?」
「あっ、いいえ。どのようなことを書けばいいのか、先生にご相談してから書いていただきたいのですけど。」
「そうですか。それでは少々お待ち下さい。」
事務員は部屋の奥へ消えていった。受付で他に待っている患者はいない。事務員は2~3分で戻ってきた。医師と話をしていたようだ。 「先生が診察室でお話を伺うとのことでしたので、そちらでお待ち下さい。順番が来たらお呼びします。」
「わかりました。」
待合室には患者が3人いた。皆高齢者で、それぞれに娘くらいの年齢の女性が付き添っている。うち一人は車いすに座っている。その老婆は、顔をあげて壁のテレビを見ているのかと思ったが、 目は画面を追ってはいなかった。付き添いの女性もおそらくは70歳代だろう。やつれて、疲れきった顔をしている。70歳代の娘がおそらくは90歳代であろう親の介護をして疲れきっている姿というのは、何ともいたたまれないものだ。 30分ほど待って、自分の名前が呼ばれた。診察室へ入るといつもの医師がいた。 「え~と、内田さん、今日は診察ではなくて、診断書を書いてほしいということですね?」
「はい、そうなのです。」
「具体的にどういう診断書をお望みなのでしょう?」
「先日、後遺障害診断書を書いていただいて、後遺症の申請をしたのですが、非該当という結果が来ました。私としては今でも強い痛みに悩まされていて、仕事にも影響があるので、 非該当という結果に対して、異議申し立てをしようと思っています。自分なりに調べましたら、MRIを撮るとか、先生に診断書を書いてもらった方がよいようなので、そのことで先生にご相談したくて来ました。」
「すると後遺障害認定に対して異議申し立てをしたいので、そのための診断書を書いてほしいということですね?」
「はい、そうです。」
「MRIを撮ってみる事は構いませんが、その結果、正常となることもありますよ。仮に異常が出たとしても、それが交通事故と関係があることなのかどうかについては、診断書には書けませんがよろしいですか。」
「えっ、異常が出ても、交通事故のためになったということは書いていただけないのですか?」
「はい。書けません。異常があれば、そのことは診断書に書きますが、事故との関連性の判断は、普通できません。」
「そうですか・・・。MRIで正常になった場合は、以前書いていただいた診断書の内容以外に、何か詳しく書いていただけるのでしょうか?」
「必要なことはすべて後遺障害診断書に書いてありますので、特別書き足すことはできませんね。同じことを強調して書くことくらいしかできないと思いますが。」
「わかりました。それでも結構ですので、ではMRIの検査もお願いできますでしょうか?」
「わかりました。では今日撮影してしましましょう。それでは待合室の方で、しばらくお待ちください。」
待合室で今の会話を思い出して繰り返してみた。医師の考えとしてはMRIで異常が出ても事故との関連性については書けないということだし、後遺障害診断書と違うことは書けないということだった。 果たしてそれで異議申し立てがとおる可能性があるのだろうか?しかし他に何をすればよいのか見当もつかない。取り敢えず検査を受けてみて診断書を書いてもらってみるしかないだろう。 MRI検査に呼ばれ、撮影が終わったのは1時間半後くらいだった。結果は来週でるので、また来るようにと言われた、その時に診断書も渡すとのことだった。

翌週、診断書を取りに行くと、診察室には呼ばれず、診断書だけを渡された。診断書代は5250円だった。診断書には傷病名のほか、
「○月○日頚部MRI施行 C5/6軽度膨隆を認める。」
との記載があった。 何かしらの異常があったということのようだが、医師からの説明はない。また診察を受けてどういうことなのか確認すべきなのだろうか。しかし後遺障害診断書と違うことは書けないと言っていたし、 不安だがこのまま提出するしかないだろう。途中コンビニによって念の為コピーを取った。自宅で異議申立書に「今も痛みは消えておらず、医師と相談してMRI検査を行いました。 その診断書を書いてもらったので資料として提出します。これは医学的所見だと思います。」と記入し、保険会社へ郵送した。

約2ヶ月後に届いた結果は、またしても「非該当」だった。

行政書士への相談

ネットを検索していて、後遺障害等級認定に対する異議申し立てをサポートしている行政書士のサイトに目がとまった。電話相談もしているとのことなので、ちょっと話だけでも聞いてみようかと思い電話をした。
「はい、伊佐事務所でございます。」
「もしもし、ネットで電話相談ができるとみてお電話したのですが、今お時間の方よろしいでしょうか?」
「はい、大丈夫ですよ。どのようなことでお困りでしょうか?」
「以前、追突事故に遭いまして、半年ほど通院をしたのですが、保険会社の人から症状固定といわれ、後遺症の認定を受けました。その結果が非該当で、自分で異議申し立てをしたのですが、結果は同じでした。 今もかなり痛みが残っている状態なのですが、異議申し立てはあきらめた方がよいのかどうか調べているところで御社のサイトを拝見しました。なにかアドバイスをいただければと思ってお電話したのですが。」
「そうですかわかりました。今お手元に後遺障害診断書はお持ちですか?」
「はい、あります。」
「それでは先ず、どのようなお怪我をされたのか、傷病名をお教えください。」
「頚椎捻挫と腰椎捻挫です。」
「通院は何ヶ月間に、何回くらい行きましたか?」
「6ヶ月半の間に、40回くらい通院しました。」
「通院したのは整形外科のみですか?」
「いえ、整形外科と、半分くらいは整骨院に通いました。」
「今は、どのような症状が残っておられますか?」

後遺障害診断書の記載事項や、非該当とされた理由、異議申し立てで提出した診断書の内容等について、ひととおりの質問に答えた後、次のように説明された。 「今伺ったお話からいえる事は、14級に認定される可能性はあるということです。認定される可能性がどれくらいあるのか興味がおありだと思いますが、これは実際に対策を進めていって、 その対策がどのような結果になるかにも左右されることですので、あまり正確なことはいえません。ただ、類似のケースでは、概ね5割くらいの方は異議申し立てをして14級に認定されています。 もっと条件の悪い方は、1割以下とか、2~4割とご案内いたしますし、もっと可能性の高い方は6~7割とか、8割というようにご案内しています。したがいまして、 お宅様が認定される可能性が高い方とは申し上げられませんが、お辛い思いをされていらっしゃるのであれば、あきらめずにもう一度異議申し立てをしてみる事を考えるべきかと思います。」
「医師に相談した時は、後遺障害診断書にすべて書いているので、違うことは書けないといわれたのですが、他に対策の立てようがあるのでしょうか。」
「実際にどのような対策を立てるかはケースごとに異なりますので、すべての診断書や後遺障害診断書等を拝見しなければ、私にもわかりません。ただ、検討した結果、医師に診断書を書いていただくことは確かに多いです。 既に一度ご自身で医師に診断書を頼んでみたが、よい返事をもらえなかったので、診断書は書いていただけないのではないかというご心配についてですが、これはほとんどのケースでご心配いりません。なぜかと申しますと、 医師が後遺障害診断書と違うことは書けないと言っているのは、診断書の頼み方が悪いことが原因となっているのがほとんどだからです。ポイントを絞って、こういうことを書いてほしいとお願いすれば、大抵は書いていただけます。 もっとも医師が、この人には後遺症はないというように考えている場合は、それとは異なることを書いてと頼んでも無駄ですので、あきらめるしかないということになります。ただ、後遺障害診断書の記載内容をお聞きした限りでは、 そのようには考えていらっしゃらないことが読み取れますので、新たな診断書は書いてもらえないとあきらめてしまうことはないと思いますよ。そろそろお時間となりましたので、ご相談はこれまでとさせていただきます。最後に何かあれば、もう一点だけお答えいたしますが。」
「診断書には具体的にはどのようなことを書いていただくことが多いのでしょう?」
「これもケースバイケースですが、医師の意見であったり、画像所見の補足であったりといろいろです。医師は後遺症の認定に必要な情報としては、診断書に何を書けばよいのかはっきりわからないのが普通ですので、そこをフォローして差し上げる必要があると思います。」
「わかりました。大変参考になりました。ありがとうございました。」

電話を切って考えてみた。異議申し立てがうまくいく可能性は五分五分程度とのこと。これはあくまでも目安であって、結局はやってみなければわからないということ。最低限の条件はクリアしているので、 完全にあきらめるべきではないこと。まだやれることはあると思うので、大変な思いをしているなら、あきらめずに異議申し立てをした方がよいのではないかとのこと。 「もう一度やってみるか。」
口に出して言ってみた。ここは専門家に頼ったほうがいいだろう。電話をした事務所ではうまくいかなくても基本料金はかかるといっていたが、それくらいは慰謝料から出せばいい。 そういえば自分の自動車保険で弁護士費用等特約というのがついていたような気がする。もしかしたらそれで料金を払えるかもしれないな。今度聞くだけ聞いてみるか。

依頼

一週間考えて、電話相談をした行政書士事務所に頼んでみることにした。電話で依頼したい旨を伝えたところ、早速必要書類についての案内と、委任契約書が届いた。指定された書類と契約書を行政書士に送り、 基本料を振り込むと、数日後にメールで連絡がきた。事故後の状況等についての質問が主な内容だった。休日など時間のある時を利用してメールのやり取りを何度か行なった。次のメールの内容は、 とるべき対策と、その理由の説明だった。対策は三つ提示されており、それぞれに重要度と説明がなされていた。二つの対策は自分のケースでは重要度が高いので、実施すべきとの説明がされていた。 医師に診断書を書いてもらうことがメインなので、想定内のものだ。三つめの対策は、万全を期すということであれば行ってもよいが、行政書士の意見では、あえて実施する必要はないということだった。 二つの対策がうまく進められれば認定の可能性は十分にあるし、三つめの対策は、上手くいかなかったときにやるかどうか考えればよいとのことなので、今回は見送ることにした。

二週間後、会社を早退して病院に診断書作成の依頼に行った。受付の事務員は前の時と同じ女性で、前の時のことを憶えていたようだ。
「今回も診断書のことですか?わかりました、先生にお伝えしておきますので、待合室でお待ちください。」
今日は前来た時より混んでいる。待合室の長椅子はいっぱいで、立って待っている者もいた。順番を待つ間、会社での事を考えた。この仕事を続けていきたいが、このまま症状が軽減しなければ、 いずれ身体を壊してしまう。気力だけではどうにもならないこともある。そんな心配があった。何かほかによい治療法はないのだろうか。そういえば妻が事故の時に小学校の前であった三沢さんから、 評判のよい整体とか鍼灸とか、そういったものの話を聞いたといっていた。一度試してみた方がよいのだろうか。

一時間ほど待ち、名前を呼ばれた。 「先生、以前は診断書を書いていただいてありがとうございました。実はまた認定されなかったので、今度は専門家に相談してきました。ちょっとこちらを読んでいただいてよろしいでしょうか。」
診断書を頼むのは二度目なので、いやな顔をされるのではないかと思っていたが、取り越し苦労だったようだ。行政書士が作ってくれた文書は医師の立場に立って、具体的な説明がしてあった。これなら医師も悩むことなく診断書が書けるのだろう。 「なるほど。わかりました。これにそって書けばいいのですね。では来週の土曜日までには書いておきますので、再来週以降に取りに来てください。」
「はい、よろしくお願いします。」

10日後に診断書を取りに行き、郵便で行政書士に送った。診断書の内容は、ほぼ行政書士の想定していた内容で書かれていたようだ。メールで次のような連絡があった。 「診断書拝見しました。この内容でしたら問題ありません。これでも『大丈夫』とまではいいきれませんが、認定される可能性はかなり高いと思います。早速他の書類を作成し、手続きを進めておきますね。進展がありましたらまたご連絡いたします。」

依頼後の異議申し立ての結果と退職

2ヶ月ほど後に行政書士から14級に認定されたとの連絡があった。メールの添付ファイルで送られてきていた認定理由は、次のような内容だった。

<結論>
自賠法施行令別表第二第14級9号に該当するものと判断します。
<理由>
異議申し立ての主旨を踏まえ、改めて診断書および提出の画像等を検討した結果、次のとおり判断します。
1.受傷後の項頚部痛、肩こりとの症状については、提出の画像上、外傷による明らかな骨折、脱臼等の器質的変化は認め難いこと、提出の診断書等に記載された医学的所見からも、他覚的に神経系統の障害が証明されるものとは捉えられません。  しかしながら治療状況なども勘案すれば、将来においても回復が困難と見込まれる障害と捉えられることから、「局部に神経症状を残すもの」として別表第二第14級9号に該当するものと判断します。
(以下 略)

ほっとした。認定されたのだ。これで少しは浮かばれる。会社の方は結局2カ月休んだ後に解雇されてしまった。戻りたいと希望したが、受け入れられなかったのだ。 職を失ったことに対して加害者への怒りもあったが、怒りよりも今後の生活に対する不安に心が押し潰されそうだった。保険会社から休業損害も払ってもらっていないため、 今は失業手当で生活をしている。すぐに職探しを始めたが、今までと同じような条件の仕事はない。かといって年収の低い仕事についてしまえば、その生活から抜け出すことも容易ではなくなるだろう。 それでは人生設計そのものが変わってしまう。貯金を取り崩してでも、今までと同じような収入の得られる会社へ入らなければならない。行政書士によれば14級になれば100万とか150万円程度は損害賠償金が増える事が多いといっていた。 それだけあれば失業手当がなくなっても何ヶ月か生活していけるだろう。だが長くはもたない。職探しを続けながらすぐに損害賠償請求の準備もしなければ。

損害賠償請求

自賠責保険から75万円を受け取った後、任意保険会社に14級になったことを伝えると、改めて慰謝料などの提示金額を示してきた。後遺障害が認定されたことで20万円ほど金額が上乗せされている。 合計で57万円を支払うことで示談をしてほしいとのことだ。痛みによる苦痛、通院で時間を奪われたこと、仕事が思うようにできなくなり辛い思いをしたこと、その上で解雇されたこと、家族にも心配をかけていること、 いまだに仕事が見つからず苦労していること、解雇されたために既に100万円以上減収になっていること、今までより給料の少ない会社に入れば、定年までに何千万円もの減収になることも十分に考えられること、そんなことを考えると、 57万円という金額で納得できるはずがない。率直にいえば500万円とか1000万円とかいう金額を提示されれば納得できるかもしれないが、裁判をしてもそうはならないことはわかっている。 それならば法律で認められる限り最大の金額を払ってもらうしかない。それにはどうすればいいのか。異議申し立てを依頼した行政書士に相談したところ、次のように説明された。
「先ずは内田さんのケースで妥当な損害額をしっかり把握することです。妥当な金額というのは、基準だけで決まるものではなく、内田さんの様々な事情を考慮した上で、もし訴訟をしたらいくら認められる可能性があるのかという金額です。 それをなるべく正確に把握して、その上でいくらまで譲歩できるかを考えることが大切です。」
「訴訟をした場合に認められる金額というのは、完全な予測はできません。どうしても幅のあるものになります。訴訟をせずに話し合いで解決させる場合は、認められる可能性のある最大値までは望めないのが普通です。 例えば訴訟で最大限認められる可能性がある金額を100とした場合、被害者側の主張があまり認められなければ90とか80しか認められないことも普通にあります。このとき保険会社の提示額が50だとすると、内田さんはいくらくらいなら納得できそうですか。 100でなければ納得できないのであれば、弁護士に頼んで訴訟提起してもらうのがよいと思います。費用対効果とか、解決までの時間などを考えて、80とか90でも示談する可能性があるというのでしたら、ご自身による交渉で十分に解決が望めます。」
「もちろん全く知識がない方には高いハードルがいくつもありますが、交通事故の損害賠償請求は、事例が豊富で基準化が進んでいるため、一定レベルの知識があれば、解決は比較的容易です。 合意がなかなかできない場合でも、正しい知識さえあれば、交通事故紛争処理センターなどのADRの利用により、ほぼ妥当といえる解決が約束されるといっても過言ではないでしょう。」

損害額を把握するといっても、どうもピンとこない。慰謝料の計算方法はネットで簡単に調べられるが、果たしてそれが正しいのかどうか。調べれば調べるほど「基準は目安でしかない」「個別に検討すべき」などの説明が目についてくる。 ネットの情報を保険会社に伝えるだけで慰謝料が増えるのなら、弁護士などいらなくなってしまうと書いてあるホームページもあった。しかしできれば交渉にお金はかけたくない。取り敢えずは自分で保険会社に交渉してみる事にしようと思った。 早速書店で交通事故解決の本を購入し、自分なりに損害額を計算して、表にまとめてみた。計算はやってできないことではないのだが、果たして自分のケースでもこれで良いのか、 実際の交渉でもこのような計算で出した金額を請求するものなのかなど、わからないことだらけだった。仕事の合間に四苦八苦して、 何とか1ヶ月でそれなりの形に仕上げたが、全く自信が持てない。これで保険会社が譲歩してくるのだろうか?もし譲歩してこなかったらどうすればいいのだろう。 悩んでいても仕方がないので、保険会社の担当者あてに郵送した。書類の表題は、損害賠償請求書と書いておいた。請求内容のほか、日付と、自分の住所氏名と捺印もしておいた。 回答は二週間以内にするようにとも書いておいた。本に書いてあったとおり内容証明にして出そうかと思ったが、以前行政書士に相談した時は確か「内容証明などめったに使わない」といっていたので、簡易書留で送ることにした。

10日ほど後に普通郵便で返事が届いた。緊張しながら封を開ける。ざっと読んだところ次のような回答だった。 「事故の件はお見舞いを申し上げます。損害賠償請求書を頂戴いたしまして、社内で慎重に検討いたしました結果、慰謝料に10万円を上乗せさせていただくことが認められました。 ご希望の金額とは開きがございますが、これで示談していただければと思います。これは最終提示ですので、同意いただけない場合はこのご提案は撤回させていただきます。」 「10万円・・・。」あまりにも少なすぎる。こちらの要求は100万円程度の増額だった。これでは話にならない。もう一度交渉してみるか・・・。しかしもう何の手段も持っていない。 下手をすればその10万円も撤回されてしまう。本当にそこまでするだろうか?やはり100万円というのが高額すぎたのだろうか?何か素人が間違えやすい勘違いをしてしまったのだろうか? どうすればよいか考えがまとまらず、悶々とした気持ちのまま3週間ほど過ぎてしまった。このまま放置はできないし、やはりあの行政書士に相談してどうするか考えてみよう。 明日は先日受けた会社の面接の結果が知らされる日だ。そのあとまた電話をしてみよう。

(終わり)

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