頸椎捻挫(むち打ち症)の後遺症認定

交通事故オンライン後遺障害編

伊佐行政書士事務所
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  1. 頸椎捻挫(むち打ち症)で14級に認定されるには
  2. 認定に必要な条件について検証する
  3. むち打ち症 ~ 頚椎捻挫

頸椎捻挫(むち打ち症)で14級に認定されるには

局部に頑固な神経症状を残すもの 第12級13号
局部に神経症状を残すもの 第14級9号

むち打ち症の痛みは原因がはっきりせず、第三者からは理解しにくいものであるため、後遺障害の等級も簡単には認められません。

①交通事故との因果関係、②症状の永続性、③他覚的所見の有無などの条件が揃えば認定される事になっていますが、 それぞれの条件の揃え方については公表されていないため、症状が重い場合でも思うように認定されないことが多いのです。

詳細な基準が公表されないのは主に不正な保険請求を排除するためと考えられますが、 その弊害として本来認定されるべき被害者の多くが非該当の通知に泣かされています。 そしてその多くが「医師と保険会社のいうとおりに通院していたのに認定されなかった」と言っています。

(1)因果関係について

まず因果関係についてですが、ア)交通事故による傷害であること、イ)傷害を受ける程度の事故だったこと、 ウ)傷害が原因となっている後遺症があるということを証明します。

ア)交通事故による傷害であるかどうかは、診断書に後遺症の原因となる傷病名が記載されているかどうかにより判断されます。 頚部痛の後遺症が残ったのに診断書に頸部を負傷した記載がないとか、記載されたのが事故から何週間も後である場合は、事故による傷害とは認められません。

イ)追突事故などで車体の損傷がほとんど確認できないのに症状を訴える場合があります。 ある程度の衝撃力がなければ人体は損傷しませんので、衝撃力と損傷の程度に整合性が見られない場合は鞭打ち損傷の存在を疑われることになります。

ウ)交通事故による傷害が原因となっている後遺症か否かが判然としない場合は、 医師に外傷性のものであるという事を理由を示したうえで診断書に記載してもらうことで有力な資料となる場合があります。 例えばヘルニアと診断されたが、それが事故によるものか、事故前から存在したものなのかを明らかにする場合などです。

(2)症状の永続性

症状固定時に痛みが残っていても、時間の経過によっていずれ消失すると認められるものについては、認定の対象とされません。 一般に、治療効果があるにもかかわらず6ヶ月未満で症状固定としてしまうと、まだ回復の見込みがあるとみなされ、永続性なしと判断されやすいです。

(3)他覚的所見の有無

むち打ち症は他覚的所見がなくても14級には認定されます。

他覚的所見の有無や程度により14級か12級に選別されます。等級表では12級のみに「頑固な」と表記されていることから、 症状が強い場合とか頑固で軽減の見込みがないというような場合が12級というイメージで捉えられがちですが、実際には骨折、ヘルニア、神経根症、反射、筋萎縮などの他覚的所見の程度により12級か14級かが検討されます。

医師に「ヘルニアがある」「脊髄損傷」「胸郭出口症候群」「首の骨が曲がっている」などといわれた場合でも12級になるとは限りません。 その可能性はあるものの、詳細に検討してみなければ14級と12級、どちらが妥当なのかは判断できません。 医師は治療のために診断基準に該当すれば、それを前提に話をしますが、診断基準と後遺障害の認定基準は別のものであるため、 12級になる可能性を検討するには、医師がどういう根拠に基づいて診断をしたのか確認する必要があります。

認定に必要な条件について検証する

事例の検証

異議申し立ての対策を考える上で何が認定に必要な条件となるかを知ることは重要ですが、公表はされていないため、経験から学ぶ必要があります。 そのため当事務所では独自の取り組みとして、受任案件を整理し、30以上の項目ごとに重要度を設定して、異議申し立ての結果予測と対策の策定に利用しています。
ここではその一部をご紹介いたします。

検証項目

今回紹介した検証項目は、(1)通院期間、(2)自覚症状、(3)他覚的所見、(4)障害内容の増悪・緩解の見通しです。

通院期間の影響度 ★★★★☆(高い)

通院期間は症状の重さに比例して長期化し、また症状が重ければ後遺症が残る可能性が高くなるのが自然と考えられるとおり、 通院期間は後遺障害等級認定の可否に密接に関連しています。頚椎捻挫の場合、6ヶ月未満の治療期間で等級認定されるケースは少ないです。 しかし単純に長期間通院すればよいというものではありません。 不要な治療を漫然と続けることは、医師や相手方の不信を招き、最終的には被害者自身の首を絞めることになります。

自覚症状の影響度 ★☆☆☆☆(低い)

症状の強さについては感じ方に個人差があるため影響度は低いですが、症状の存在自体は後遺症の認定に不可欠の要素であるため、 診断書には確実に記載される必要があります。症状が無ければ認定もあり得ません。

症状の一貫性も大切です。治療期間中に事故直後にはみられなかった新たな症状が出現する例がありますが、 特別な場合をのぞき事故との因果関係は否定されます。医師とのコミュニケーションが取れていないと、 事故直後からあった症状も、診断書上はしばらく経過してから出現したものと書かれてしまう場合もあります。

他覚的所見の影響度 ★★★☆☆(中程度)

症状の存在をうかがわせる他覚的所見の存在は認定に大きな影響を与えますが、他覚的所見が見つかりにくいのもむち打ち症の特徴です。 画像や神経学的テストによる異常所見があれば認定されやすいですが、それらがない場合でも認定例はあります。 XPやMRIによる異常の有無にばかり気をとられないようにしましょう。

障害内容の増悪・緩解の見通しの影響度 ★★☆☆☆(中程度)

医師が障害の永続性について意見を書く欄です。ここで永続性が否定された場合は、認定される可能性は著しく低くなります。 逆に後遺症が生涯残るという記載がされた場合でも、そのことのみで認定されることはありません。

その他の検証項目

治療経過

通院状況については「7b/a」、治療状況については「x/x+y」等の数式を用いて数値化し、客観的な分析に使用しています。
※a=通院期間、b=実通院日数、x=専門外来での治療、y=その他

治療内容については、診療報酬明細書の内容を参考に分析し、評価に役立てています。

受傷機転

受傷機転については、衝撃度や頚椎の挙動について簡易的に数値化し、評価しています。

他覚的所見との整合性

症状と他覚的所見との整合性につき、WADの分類(grade1~grade3)、Dermatome、椎間板ヘルニアの形態分類などを考慮し、事案に応じた評価を行っています。

検証事例一覧

等級 傷病名 通院期間 自覚症状 他覚的所見 増悪・緩解の見通し
1 14級9号 頚椎捻挫・腰椎捻挫 181日間 頚部痛、背部痛、腰痛 MRI上L5/6膨隆 痛みは長期間続く
2 14級9号 頚椎捻挫 225日間 項頚部痛、頚部可動域制限、上腕部痛 XP上異常なし 症状固定
3 非該当 頚椎捻挫 204日間 頚部痛 (記載なし) 不明
4 14級9号 頚部挫傷 268日間 頚部痛、頭痛、背部痛 スパーリングテスト+、握力右35kg左20kg 痛みは長期間続く
5 14級9号 外傷性頚部症候群 322日間 頚部痛、吐気、頭痛、肩しびれ 椎間板腔狭小化、生理的前弯減少 (記載なし)
6 非該当 頚椎捻挫・腰椎捻挫 175日間 頚部痛、腰痛 MRI上C5/6,6/7ヘルニア、反射正常 緩解の見込みはない
7 14級9号 頚部挫傷 199日間 項頚部痛、背部痛 (記載なし) 症状固定と判断する
8 非該当 頚椎捻挫・腰椎捻挫 345日間 頚部痛、肩部痛、頭痛、吐気、易疲労感、腰痛、大腿部しびれ MRI上L5/6ヘルニア 痛みは長期間続くと思われる
9 14級9号 外傷性頚部症候群 255日間 項頚部痛、疲労感、上肢しびれ、視力低下 特記すべき所見なし 不明
10 非該当 頚椎捻挫 237日間 頚部痛、背部痛 XP異常なし、ジャクソンテスト+ これ以上の改善は考えにくい
11 14級9号 頚椎捻挫・外傷性頚椎椎間板ヘルニア 333日間 項部痛、左上肢痛 MRIにてC6/7突出 (記載なし)
12 14級9号 低髄液圧症候群 295日間 頭痛、倦怠感、吐気、頚部痛 XP np 頭痛、倦怠感のため仕事、生活に著しい支障がある。症状に変化見られないため固定とする。
13 14級9号 頚椎捻挫・腰椎捻挫 188日間 頚部痛、腰部痛 前弯減少、Jackson's test+、握力右15kg 左25kg 症状を残し固定となる
14 非該当 頚部挫傷 207日間 項頚部痛、背部痛 MRI C5/6椎間板軽度ヘルニア、反射正常、Spurling test + 時間はかかるが徐々に軽減している
15 非該当 頚椎捻挫・バレーリュー症候群 241日間 頚部痛、左肩痛、左上肢痛、めまい、吐気、易疲労感、頭痛 (記載なし) 症状固定と考える
16 14級9号 頚椎腰椎捻挫 462日間 頭痛、頚・項部痛、腰痛、背部痛 頚部圧痛、C6/7棘突起圧痛 (記載なし)
17 非該当 外傷性頚部症候群 233日間 頚・項部自発痛 なし 症状は長期間続いている
18 14級9号 頚部脊椎症 401日間 頭痛、頚部自発痛、上肢しびれ感、背部痛、上肢倦怠感 頚部圧痛、筋緊張硬結、握力低下、C6/7やや狭小化 改善の可能性はほとんどない
19 14級9号 頚椎捻挫 276日間 頭痛、頚部痛 頚椎第5・6椎間腔狭小 頚部痛は頑固で仕事に影響あり
20 14級9号 頚椎挫傷 308日間 頭痛、頚部痛、耳鳴、左肩・胸部痛、記銘力低下、倦怠感 後頭神経圧痛、項頚部筋緊張亢進圧痛 緩解の可能性低い。増悪の可能性は不明
 

検証結果

(1)頚椎捻挫、頚部挫傷、頚部症候群、「外傷性」という言葉の有無など、傷病名の違いによる認定の差異は読み取れませんが、 打撲(主に腰部の場合)と診断されたケースでは、認定されにくい傾向が見受けられました。

(2)通院期間が180日に満たないケースでは、他の条件が揃っていても認定されにくいため、通院期間は重要な検討項目となっていると考えられます。 ただし同じ14級9号でも、例えば肩関節で腱板損傷などの所見が認められるケースでは、180日未満の短期間でも認定されるケースは存在しています。

(3)自覚症状は多種多様であっても認定されやすくなるという傾向は認められませんでした。診断名と矛盾があったり、一貫性がないと認定されにくい傾向があります。

(4)他覚的所見は、神経学的検査、筋力テスト、生理学的検査などで異常所見があっても、それのみが決め手となり認定されることはないようです。 画像所見は重要ですが、むち打ち症で外傷性の画像所見が得られることは多くないと思われます。所見があってもほとんどが退行性の変性ですので、そればかりに拘泥する必要もないでしょう。 画像撮影が無い場合でも認定されることはありますが「画像を撮る必要もないような事故」とみられる可能性も否定できませんので、 相応の衝撃を感じた場合は、妊娠などの事情が無い限り、レントゲンの撮影はしてもらうべきでしょう。

むち打ち症 ~ 頚椎捻挫

むち打ち症(鞭打ち損傷;Whiplash injury)の名前の由来は、頚椎が通常制限されている範囲を超えて鞭のようにしなり、 そのために周辺の筋・腱・靭帯・椎間板などの組織が損傷するというところからきています。 通常、診断書には「頚椎捻挫」「外傷性頚部症候群」「頚部挫傷」などと書かれます。 「むち打ち損傷」という名前でも通じますが、医師の診断書にこの言葉が使われることは稀です。 最近の車にはヘッドレストがついていますので、実際に首が鞭のようにしなったという被害者は多くはないでしょう。 「むち打ち」という言葉を使うことは、被害者をいたずらに怖がらせ、治療の遷延化を招く原因になるという批判もあります。

※「むち打ち損傷」とは外傷を受ける時の態様を表す言葉です。頚部が鞭のようにしなった結果、周辺組織が損傷するという意味です。 「むち打ち損傷」により、頚椎捻挫や外傷性頚部症候群という傷病名がつけられます。 こうして引き起こされる傷病名がひとくくりに「むち打ち症」と呼ばれています。
   

むち打ち症の受傷機転

むち打ち症は、自動車乗車中に後方から追突されると、頭部に加えられた慣性により、 それを支えている可逆性のある頸椎に介達力が働き、過屈曲、過伸展により頸部周辺の軟部組織が損傷するものと考えられています。 「頸椎の過屈曲、過伸展」が、鞭のようにしなる運動であることから「むち打ち損傷」の語源となっています。

むち打ち症という言葉は、俗称のように使用されているようで、実際に頸椎の過屈曲、過伸展があったかどうかにかかわらず、 また、自動車の追突事故に限らず、側面衝突事故や、オートバイ・歩行者の事故の場合でも、 頸部に捻挫・挫傷などの怪我をした場合の総称として使用されています。当事務所でも相談者に対しては「頸椎捻挫」などの言葉を使うより、 「むち打ちですか?」と聞いた方が話が早いこともあり、差しさわりのない範囲で「むち打ち」という言葉を使っています。

実際に被害者に受傷時の頚部の動きを聞いてみても、突然の事態に驚き、冷静さを欠いた状況となっていることが普通で、 衝突後のことは憶えていても、衝突の瞬間に身体のどの部分がどのようになったかを正確に記憶している人はほとんどいません。 わずかに憶えているという人たちの話を聞いても、背中を押されるような衝撃だったとか、ヘッドレストに頭をぶつけ、 そのあと前のめりになって、シートベルトに胸をぶつけたというようなことがほとんどで、 「鞭がしなる」ように前後に揺さぶられたという人は、ほとんどいません。多くのケースは、 鞭がしなるような運動はないものの、頭部が慣性で揺さぶられ、頸部が後屈することによって、損傷しているものと考えられます。

症状と治療

むち打ち症の症状は、頚部周辺のコリや痛みのほか、圧迫感、緊張感、上肢のしびれ・脱力感、めまい、吐気、倦怠感、頭痛、視力・聴力障害など様々なものがあります。 治療は一般的には整形外科か整骨院・接骨院で行われます。 軽症の場合は安静のみで軽快する例が多く存在します。 ところが何割かは頑固な症状を残し長期化するため、痛み止めの飲み薬や張り薬、向精神薬を処方されたり、神経ブロック注射や局所麻酔が行われます。 そのほか理学療法として、電気、マッサージ、温熱などの各治療も行われます。 これらの治療の目的は、症状を抑えることと、血行を改善し、治癒を促すことにあります。

治療は医師が最善と信じる方法によって行われます。医師によっても方法が異なる場合がありますし、 同じ医師でも患者を取り巻く社会環境によって治療法を変えることがあります。例えば、ある高齢の主婦に対しては安静を第一に指示したが、 ある肉体労働者には投薬や物療を積極的に行う等です。医療は必要な医療を必要な患者に施すことを考えますので、 このように治療内容が異なるのは当然のことといえましょう。 しかし自賠責保険は「通院が多ければ苦痛も多い」という単純な理屈により慰謝料計算を行います。 その弊害として、同じような苦痛を被った被害者間でも、治療内容が違う事によって慰謝料の金額に差が出るという不公平が生まれます。 慰謝料が少ない被害者は「医師がろくに治療してくれなかったせいだ」という間違った不満を持ちます。解決の難しい問題です。

整骨院、接骨院による治療も有効です。整形外科とは異なる視点で治療にあたり、中には顕著な改善を示す被害者もいるようです。

治療をどの程度の期間行なうべきかについては医師の診断によるところであり、患者の症状の変遷等により判断されるべきものですので、 一概に期間を区切る事はできません。1ヶ月でよい人もいれば、1年程度治療すべき人もいます。 怪我の程度は軽重がありますし、回復力にも肉体的、社会的(通院に通いやすい環境にいるかなど)な要因により差が出るのは当然といえましょう。 保険会社から一律に『鞭打ちの治療は3カ月まで』 などといわれている被害者もいますが、個別事情を考えずに治療期間を制限する姿勢には疑問を覚えます。

保険会社の強引な治療費支払いの打ち切りという問題がある一方で、医療機関による過剰・濃厚診療が行われているという問題もあります。 患者に対して「なるべく毎日来るように」と指示をして、3ヶ月程度毎日のように濃厚治療を行ない、 保険会社から治療状況の確認が入ると、トラブルを避けるため患者には治療中止を伝えるというような、利益目的の不当な行為です。 このような行為に加担すると、場合によっては被害者自身の受け取れる損害賠償額が減ってしまう事もあります。

検査

初診時に骨傷の確認のためレントゲンを撮るのが普通です。事故の衝撃の大きさや症状等によってはMRIやCTを撮影する場合もあります。 症状が長期化する場合も、後日MRI検査をすることがあります。 他にもRIシンチやアンギオグラフィー等の検査方法がありますが、一般的なむち打ち症で行われることは普通ありません。

下の写真は左がレントゲン、右がMRIです。レントゲンは骨が白く描写されるため、主に骨折の有無や骨棘の存在、椎間板腔の状態、 頚椎アライメントについて診断されます。MRIでは椎間板や脊髄が描写されるため、ヘルニアによる神経圧迫などが診断されます。

 

被害者としては詳しく検査してもらった方が安心ですが、医師は治療のために必要でない検査を行う事には消極的です。 MRIで異常が確認されても、その事は必ずしも治療にプラスに働くとは限らないからです。 医師が治療に必ずしも必要とはいえない検査を、健康保険を使って行う事に抵抗を憶えるのは当然のことでしょう。 後遺障害が心配な被害者は、そうした事情も考えておくべきなのです。

神経学的検査として、ジャクソンテスト、スパーリングテスト、腱反射、腰ではラセーグテストなどが行われる場合があります。 人間の身体は、働きの決まっている神経が、決まった位置を走行しています。何らかの原因で、ある神経が障害されると、普段は押しても痛まないような 部位を押すことによって、痛みが再現されるのです。ジャクソンテストやスパーリングテストは、頭部を押して症状を再現させるテストです。 ただし診断精度はあまり高くないといわれており、あえて実施しないという医師も多いです。

その他にも筋力テスト(MMTや握力)、知覚障害の検査、可動域検査などが行われる場合があります。これらは被害者の随意性に依拠する検査であるため、 客観性は高くないと考えられています。

ジャクソンテスト、スパーリングテスト

検査者が、椅子に座らせた被検査者の頭部を上方から手で圧迫します。すると頚部の椎間孔が狭められるため、神経根に障害がある部位の しびれや痛みが再現されます。頭部を後屈させて行うのがジャクソンテスト、痛みのある側に側屈させて行うのがスパーリングテストです。

頸椎捻挫が14級か12級となる理由

脳と脊髄を中枢神経というのに対して、中枢神経から分岐して身体各部を走行する神経を末梢神経といいます。末梢神経は三叉神経や視神経、頚神経などの 脳脊髄神経と自律神経に分類できます。骨折や挫傷、打撲、捻挫などの外傷によって末梢神経が障害されると、運動麻痺や知覚障害、自律神経の障害が見られます。 後遺障害等級表には、神経系統の障害に関する等級は、1、2、3、5、7、9、12、14級とありますが、 1級~9級は中枢神経の障害、12級と14級は末梢神経の障害というように別れています。

頸椎捻挫後の痛みやしびれ等の後遺症は、ほとんどが末梢神経の障害です。 末梢神経障害は第12級か第14級になりますが、その違いは他覚的所見の有無に大きく左右されます。 「医学的に神経系統の障害が証明できる」場合は12級となり、証明はできないが後遺障害ありと認められる場合は14級となります。 「証明できる」とは、医学的検査方法によって証明できる場合をいいますが、画像による損傷の証明が最も精度が高く、有効と考えられます。 その他の電気生理学的検査方法や神経学的検査では、精度が高いとはいえないため障害の存在を「証明した」とまでは認められないのが一般的です。

頚椎捻挫で障害されるのは末梢神経ですから、第12級か第14級のどちらかに認定されることになります。 むち打ち症の場合は、医学的証明が困難なケースが多く、ほとんどが14級止まりです。

局部に頑固な神経症状を残すもの 第12級13号
局部に神経症状を残すもの 第14級9号
 

見えない障害

事故で腕を骨折しますと、しばらくはギプスのお世話になる事が多いと思います。周りの人もギプスを見てどんな怪我なのか概ね察しがつきます。 ところがむち打ち症の場合は、初期に頚椎カラーをはめる事はありますが、何週間もその様な装具をつけるわけではありません。 本人は色々な症状が強く残っているのに、周りの人にはその辛さがわからない為、 「まだ通院してるのか」「気のせいでは」などというように勘ぐられる事もしばしばのようです。 周りの人間にこのように思われるのも辛い事ですが、保険会社にその様に見られる場合もあります。「鞭打ちは3ヶ月までしか治療できません」 「骨折しているわけではないのですから、もう治療は止めてください」 これらは相談者が実際に担当者からいわれる言葉です。 ほとんどのケースで、6カ月程度で保険会社からの治療費の支払いが打ち切られます。 他覚的所見が得られにくいために、こうした問題がよく起きており、それが原因となって適切な後遺障害等級が認定されないケースが多く存在しています。

見えない障害であることを逆手にとって、不正請求が行われている場合があります。実際には怪我をしていない若しくはごく軽症であるのに、重い症状を発症した ふりをして保険金を手にしようとするのです。これは詐欺行為となります。

心因性ストレス

ストレスが原因で体調を崩すことはよく知られています。交通事故で怪我をすると、平均的な人でも痛みや治療に時間を奪われることなどで 相当のストレスを感じることが予想されます。被害者本人にそうした自覚がなくても、心因反応として症状が遷延化するということもあるといわれています。 特に自律神経はストレスの影響を受けやすいため、バレーリュー症候群の症状が顕著な例では、外傷とは別の要因で治療が遷延化したと、加害者側から 素因減額を主張される場合もあります。

しかし平均的な人でも心因性ストレスは感じるものですので、心因性ストレス=素因減額という図式は成り立ちません。素因減額がなされるのは、 平均的なケースより明らかに過剰に反応しているというようなケースに限られるべきです。

心因的な要因がからんでいつまでも症状が出ている可能性もあるなどの理由をつけて、 保険会社は6ヶ月程度で治療を打ち切りたがる傾向にあります。確かに交通事故によるむち打ち症の場合は損害賠償の話が絡むため、 一般のけが人に比べ心因的な要素が複雑に絡み治療が長期化しやすいということは以前から知られていますが、 加害者側の心無い態度がその元凶となっているのではないかと思えるようなケースが多々見受けられるのは、大変残念な事です。

むち打ち症の病型分類

むち打ち損傷によって生じる傷病は捻挫型、神経根症型、脊髄症型、バレーリュー型に病型分類されます。

捻挫型

捻挫型は項部や僧帽筋の痛みを中心とした症状が現れます。捻挫とは関節が脱臼する前の段階ですが、靭帯などが損傷している状態をいいます。 損傷した組織の出血により痛みを発します。それに伴い周囲の筋は収縮反応を示しコリやストレートネックを引き起こすともいわれています。

神経根型

頚椎には7個の椎骨が連なっていますが、その中の脊髄から各椎骨の隙間を通って神経根という神経の太い塊が伸びて、そこから 肩や上肢などの末梢神経へ接続しています。ヘルニアや骨棘など何らかの原因でこの神経根が障害されるのが神経根型です。 各神経根はその支配領域が決まっている為、症状がでている部位からどの神経根が障害されているか推測ができます。 ジャクソンテスト・スパーリングテストが陽性の場合は神経根型といわれることが多いです。 上肢の痛み、しびれ、知覚異常などの症状が出ます。

脊髄症型

脊髄症型は椎骨に囲まれた脊髄が何らかの原因で障害されたものです。骨折や脱臼のほか、脊柱管狭窄症や後縦靭帯骨化症、 骨棘などで発症することもあります。骨折や脱臼以外の原因がある場合は既存の障害が関与しているケースが多いです。上肢だけでなく、 体幹や下肢にも運動機能障害、知覚障害、排尿障害など何らかの症状が出る場合があります。腱反射、病的反射により診断されることが多いです。

バレーリュー型

バレーリュー症候群は、めまいや耳鳴り、かすみ目、流涙、吐気、動悸、発汗など脳幹、自律神経症状を主訴とするものです。 原因は様々な説があり、はっきりとわかっているわけではないようですが、 頚部の交感神経が亢進している為とか、 椎骨動脈の循環障害のためなどと考えられています。

病態にあった治療法

物理療法が効を奏さない場合は、ケースバイケースのことではありますが、神経ブロック療法を行なったり、 低髄液圧症候群の検査をする場合もあります。 神経ブロックはバレーリュー症候群などの治療に用いられます。 自律神経系の異常が疑われる場合は星状神経節ブロックによって改善が見られることが多いです。 医師の考え方や患者の症状の程度にもよるのでしょうが、治療効果があるかどうか判然としないのに、 漫然とブロック注射が続けられているようなケースも目にします。

ブロック療法でも効果がなく、頭痛や倦怠感等の強い症状に悩まされる場合は、 低髄液圧症候群の検査を進められることが多くなってきています。低髄液圧症候群自体は昔からある病名ですが、 近年、鞭打ち損傷後の様々な症状は、この低髄液圧症候群である場合があるという説が話題に上っています。裁判では低髄液圧症候群と交通事故との因果関係が認められた例などが出てきており、 マスコミで報じられていますが、認められない例も多く存在しています。

症状の原因を特定することができず、心因性によるという診断では患者が納得しない場合に、最後の可能性として「低髄液圧症候群」 を示唆されることがあります。被害者としては「そういえばこの症状も当てはまる。これが原因だったのか。原因がわかってよかった」 という気持ちになりがちですが、医師としては他に原因の説明のしようもなく「念の為検査をしてみてはどうでしょうか、それで駄目ならもうお手上げです」 という意味合いで検査を勧めることも多いようです。

濃厚診療、過剰診療

医療機関の中には治療費目当てで過剰なリハビリ、投薬、不要な入院などを行うところもあります。そのせいで回復が遅れたり、適切な損害賠償を受けることができなくなるなど、 被害者に不利益な状況が生み出されます。

むち打ち症の研究

むち打ち損傷は昭和40年代にマスコミに大きく取り上げられて以来、様々な研究(下欄に一部掲載)がされてきましたが、 症状が多彩で治療方法もはっきりと確立されているわけではなく、 そういった意味では奇病ともいえるようです。多くは消炎鎮痛剤による薬物療法や電気、温熱などの物理療法により、症状の緩和と回復が図られます。

  • □シートベルト装着に起因する頚椎損傷の研究
  • □頚椎捻挫における自律神経症状の客観的評価法
  • □外傷性頚部症候群の予後に関する筋電図学的検討
  • □外傷性変化と加齢性変化を鑑別するための臨床的研究
  • □自動車事故における頚椎捻挫患者の適切な入院期間と症状固定までの期間の解明
  • □頚椎捻挫における胸郭出口症候群の関与
  • □頚椎捻挫におけるMR像の評価基準に関する研究
  • □頚椎部外傷でX線所見や明確な脊髄または神経根損傷所見を欠くいわゆるむち打ち損傷の中、長期予後調査と症状遷延の要因分析

ケベック報告

1995年にカナダのケベックむち打ち症関連障害(WAD)特別調査団によるむち打ち症診断治療上のガイドラインが示されました。 ガイドラインでは「むち打ち損傷の関連障害は一時的な症状であり、永続的障害をほとんど残さない。通常一定期間で問題なく回復する定型的な経過をとる」 という根拠のもと、安静、固定、消炎鎮痛剤の積極的使用、理学療法は、治療の長期化につながるとし、早期からの頚椎運動の促進等を指導しています。 しかし日本の現状とはかけ離れており、ケベック報告を直ちに導入することは困難と考えられています。 日本ではそれに代わるようなガイドラインも確立されておらず、臨床医によってむち打ち症への理解や治療法はまちまちであるといわれています。

低速度衝突

身体にある程度の外力が加わらなければ、捻挫や挫傷などの外傷を受けることはありません。一口に追突事故といっても、 車両が全損となるほどの衝撃を受ける場合もあれば、低速度でぶつかり、車両の破損が目視確認できないような事故もあります。 後者の場合、身体に損傷を受けることがあるのか、衝突実験により科学的に検証した論文がいくつか存在します。それによれば、 ヘッドレストの存在により、低速度衝突での過伸展、過屈曲は生じず、いわゆる「むち打ち」運動により頚部を痛めることはないが、 ヘッドレストに頭頚部をぶつけることによる軽度の挫傷が発生する可能性はある。しかし時速5km~10km程度の衝突では、 症状を訴えることはあっても、短期間で治癒するごく軽傷のものであるという結論が導かれています。

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