後遺障害等級と労働能力喪失率・時効・慰謝料

交通事故オンライン後遺障害編

伊佐行政書士事務所
〒278-0051千葉県野田市七光台316-17
  1. 労働能力喪失率の算出方法
  2. 喪失率の妥当性
  3. 労働能力喪失期間
  4. 慰謝料の交渉が必要な理由
  5. 等級に応じた慰謝料金額
  6. 時効

労働能力喪失率の算出方法

得べかりし利益の喪失 ~逸失利益

後遺症が残った場合は、その支障のために将来にわたって労働能力に影響が出る事が一般的に考えられます。 そして労働能力に悪い影響が出れば、その分収入が減る可能性が高いと考えるのが合理的です。事故が無ければ得られるはずだった利益が、 後遺症のために得られなくなったことによる損害を「逸失利益」といいます。

逸失利益は「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「就労可能年数に対応するライプニッツ係数」という式で算出します。 労働能力喪失率は、 労働能力喪失率表によることが一般的な取り扱いとなっています。

障 害 等 級 労働能力喪失率
第1級 100/100
第2級 100/100
第3級 100/100
第4級 92/100
第5級 79/100
第6級 67/100
第7級 56/100
第8級 45/100
第9級 35/100
第10級 27/100
第11級 20/100
第12級 14/100
第13級 9/100
第14級 5/100

表の喪失率は、労災補償の給付額から算出されたものといわれています。 後遺障害の重さがどの程度労働に影響するのかを意識して作られていることは間違いありませんが、 現代の多様化した職業について、その職務内容の違いを考慮することなく作成されており、基準としては単純すぎるきらいがあります。 自賠責保険も労災の障害認定基準に準拠するとされていることから、 同じ表を使って逸失利益の計算をしています。自賠責保険はこの表に基づいて計算することに決まっており、例外はありません。それは自賠責保険が 個々のケースに合った損害賠償をすることを目的にするものではなく、最低限の保障を目的とするものだからです。自賠責保険の支払いは、 多くの場合保険金額の上限に達するため、労働能力喪失率をフレキシブルに運用する意義が乏しいということも理由の一つでしょう。

しかしこれはあくまでも自賠責保険の計算であって、一般の損害賠償請求の計算方法がこれに縛られるいわれはありません。 有職者を前提とした労災保険の基準を、有職者・無職者を問わず全年齢の人を対象とした自賠責保険の基準として用いることの歪を指摘する声も根強くあります。 残った後遺症による労働能力喪失の程度が、労働能力喪失率表の数値を上回るものといえるのであれば、 それ以上の喪失率で請求をすることは自由にできるのです。

喪失率の妥当性

そもそも労働能力喪失の程度は、全く同じ障害が残った場合であっても、その人の性格、職業、年齢、性別などによりバラバラであることは 自明の理です。例えば嗅覚が失われて12級相当となった人の喪失率は14%で妥当でしょうか。 調理師、主婦、工事現場作業員、製造工場作業員、教師、事務職、営業職、販売職、ピアニスト・・・。喪失率が何パーセントになるかは 別としても、料理のにおいがわからないことが調理師にとって大きな支障となることは容易に想像ができますし、現場作業員にとっても ガスや溶剤のにおいがわからないことは、仕事を行う上での支障となり得ます。それに比べると事務職や営業職では支障が出にくいといえるでしょう。 こうした個々の事情を無視して、何等級であるかということだけで労働能力喪失率を決めて後遺障害逸失利益の計算をするというのは、 雑な計算方法といえます。

装具等による労働能力の改善

装具等により労働能力や日常生活動作に改善が見込める場合があります。例えば義肢、かつら、特注靴、コルセット、補聴器などの装具や器具です。 障害の内容によっては、喪失された労働能力を大きく改善できるケースもあるといえますが、そのような場合は装具の取得費用を損害として認めたうえで、 労働能力を低く算定するという取り扱いがなされるのでしょうか。例えば下肢短縮の後遺障害が残り、左右の脚長差をなくす特注靴を装着している場合、 職業によっては労働能力にほとんど影響を及ぼさないという事があります。このようなケースでは一律に労働能力喪失率を低く算定するという取り扱いはされませんが、 被害者の障害内容、年齢、職業などを個別に検討し、表ほどの労働能力が失われていない状態が継続するという事になれば、喪失率が低く算定されることになります。

差額説と労働能力喪失説

理想をいえば、後遺症がその被害者にとってどのような不利益をもたらすのか、実際に減収はいくらあるのかを計算して逸失利益を算出 すれば、「実損害の填補」という意味では、被害者にとっても加害者にとっても公平な解決ができそうです。これは一般に「差額説」という考え方に 基づくものです。差額説を突き詰めていけば、表の労働能力喪失率にこだわる必要はなく、実際の支障の程度や減収の実態を証明すれば、妥当な 逸失利益の計算ができそうでもあります。しかし逸失利益というのが将来発生する損害である以上、被害者の年齢によっては、数十年間にわたり フィクションによって損害計算をせざるを得なくなります。被害者の事故時の職業等を考慮して損害計算をするのが基本ですので、例えば 27歳のOLが嗅覚脱失で12級となったケースで、その時点では減収がないからと、向こう40年間にわたり逸失利益は発生しないと断じてしまう ことにも違和感を覚えるのではないでしょうか。

差額説に対する考え方として「労働能力喪失説」があります。これは実際に減収がなくても、障害が残っている以上は労働能力を 喪失していることは明らかであるので、現実の減収がなくても逸失利益を認めるという考え方です。労働能力喪失説に立った場合は、 喪失率がどれくらいかということを立証する必要がありますが、これを厳密に考えると、後遺症の内容や具体的な職務内容、その存続可能性などにより 個別に喪失率を主張することとなりそうですが、結局はフィクションの話であり、全てのケースにおいて個別に喪失率を認定するのは 著しく困難が伴い、それによって公平性が損なわれる恐れもあるのではないでしょうか。

結局のところ、実際にはほとんどが労働能力喪失率表とおりの喪失率で話し合いが進められています。 喪失率算出の科学的根拠はあいまいですが、「平均的な」解決に大いに役立っていることは事実です。訴訟上で喪失率表とは異なる率の主張をして認められるケースは 多く存在していますが、それなりの理由がある場合に限定されています。どちらの説に偏った主張をしても、結局は長期間にわたって 個別に主張する損害が発生し続けると認定することが困難であるということも理由の一つかと思います。

減収がない者の労働能力喪失率

逸失利益は、労働能力を一定量喪失することにより予定される減収分を、損害とみるものです。 しかし実際には復職後、事故前と変わらない給与収入を得ているものもいます。 このようなケースでも逸失利益は認められるのでしょうか。

減収が無ければ損害もなしともいえますが、逸失利益は将来の損害を予測して計算するものです。現時点で減収が無いからといって、 将来にわたって減収が発生しないとは必ずしも言い切れません。例えば減収が発生していないのが、職場の配慮によるものだった場合は、 将来にわたってその配慮が維持されるかどうかは、何ともいえない部分があります。 直属の上司の異動や、会社の経営状況によっては真っ先に人員整理の対象とされる可能性がありますし、 転職できたとしても前職と同じような配慮をしてもらえる可能性は低いでしょう。 定年まで2~3年の人であれば、その状態が維持される可能性は高いですが、定年まで30年ある人の場合はどうでしょうか。 それだけ長い年月特別な配慮を受け続けられる保証はどこにもありません。職場の規模や、一般企業か、公務員かということも関係してきます。

多くの判例は逸失利益を完全に否定はしていません。ただし労働能力喪失率を低く認定して計算するなど、現実に即した調整を行うケースは多いです。 その後遺症が、その人の業務にどれだけの支障があるのか、特別な努力をして減収を食い止めているのか、勤務先の規模や転職の可能性はどうか などの事情を総合考慮して認定がされています。

労働能力喪失期間

就労可能な上限年齢

後遺障害は、生涯残るという前提で等級が認定されるものであるため、労働能力喪失期間は、就労可能とされる年齢までの分が認められるのが原則です。 実務上、就労可能とされる年齢は67歳とされています。これは昔の簡易生命表から導き出された数字です。既に67歳を超えている者や、 症状固定日から67歳までの年数が簡易生命表による平均余命の二分の一より短くなる者の場合は、平均余命の二分の一の期間を喪失期間とします。 例えば平成24年の簡易生命表による65歳男子の平均余命の二分の一は9.4年ですので、労働能力喪失期間は9年として計算します。

喪失期間の始期を、症状固定日の時点での年齢と安易に決めつけることは、不公平な結果を生み出します。例えば年収700万円で労働能力を45% 失った男子の場合、症状固定日に40歳となったAと、症状固定日の翌日に40歳となる(症状固定日は39歳)Bでは、 Aの逸失利益が約4612万円であるのに対し、Bの逸失利益は約4692万円となり、その差額は80万円にもなります。

馴化と可塑性

労働能力喪失期間は、67歳までを原則としますが、後遺障害の種類や被害者の年齢などにより、必ずしも同程度の労働能力の喪失が生涯続くとは 言い切れないケースも存在します。むち打ち症の喪失期間は、神経症状はいずれ馴化し、支障が軽減されるというのが定説となっており、 14級の場合で3~5年程度、12級の場合でも10年程度で喪失期間は打ち切られています。 また、若年者には可塑性があり、例えば機能障害などは、訓練によりかなり回復することが知られており、労働能力喪失率を期間の経過ごとに 逓減させる場合もあります。例えば最初の10年は35%とするが、次の10年は27%で計算するなどです。

未就労者の喪失期間

既に就労している者は67歳までの年数を喪失期間としますが、未就労のものは次のように決定します。

  • □18歳未満の者は18歳を就労の始期とします。
  • □大学在学者、大学卒業見込み者は大学卒業時を就労の始期とします。

18歳未満の者の労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数は、18歳に達するまでの期間分を引いて計算します。 例えば10歳の者の場合は、10歳から67歳までの57年間に対応するライプニッツ係数の18.7605から、 10歳から18歳までの8年間に対応するライプニッツ係数6.4632を引いて12.2973となります。

慰謝料の交渉が必要な理由

交通事故による慰謝料の金額は、弁護士会から等級ごとに基準となる金額が示されており、それを参考に決めることになります。 しかし損害保険会社は独自に自社の支払基準を定めており、その金額はかなり低額であるため、 被害者としては弁護士会基準程度の金額の支払いを受けるためには、交渉を行う必要があります。

保険会社の支払い基準が低いのには理由があります。会社として利益を出すためという目的ばかりではありません。 交通事故が100件あれば、それぞれに異なる事情があり、本来は個別に検討して慰謝料の金額を決めるべきです。 検討すべき事項としては「障害の内容」「生活に与える影響」「精神的苦痛の大きさ」などが考えられます。 しかし日々大量の保険金を支払わなければならない保険会社としては、全ての事案を詳細に検討することは事務的な負担が大きすぎ、 ある程度の効率化が必要となります。 基準が存在するため、保険会社は「基準とおりの支払いで異議のない被害者」に対しては、細かい立証を求めず、 簡易、迅速な損害賠償金の支払いを可能にしています。そしてそれを歓迎する被害者も存在します。 細かい損害の立証が無い状態で支払う損害賠償金は、 低めの計算にせざるを得ないという事情もあるのです。

したがって、必要な立証等をして、個別事情に応じて基準額以上の請求をすることはもちろん可能です。 保険会社もその主張に理由があると認めた場合は、大幅に譲歩した金額を示してくるものです。

  • 慰謝料の上手な交渉方法
  • (1)相場を理解する
  • (2)基準を上手に使う
  • (3)必要な主張立証をする

等級に応じた慰謝料金額

等  級赤い本青本任意保険
第1級 2,800万円2,700~3,100万円1,900万円
第2級 2,370万円2,300~2,700万円1,500万円
第3級 1,990万円1,800~2,200万円1,250万円
第4級 1,670万円1,500~1,800万円950万円
第5級 1,400万円1,300~1,500万円750万円
第6級 1,180万円1,100~1,300万円600万円
第7級 1,000万円900~1,100万円500万円
第8級 830万円750~870万円400万円
第9級 690万円600~700万円300万円
第10級 550万円480~570万円200万円
第11級 420万円360~430万円150万円
第12級 290万円250~300万円100万円
第13級 180万円160~190万円60万円
第14級 110万円90~120万円40万円
※ 赤い本と青本は、弁護士会による損害賠償額算定基準を定めた本です。どちらを使わなければならないという決まりはありませんが、 関東では赤い本、その他の地方では青本が利用される傾向にあります。任意保険会社の基準は、会社によって異なりますが、だいたい横並びで 決められています。

非該当の後遺症に慰謝料は認められるか

等級が認定されなくても後遺症が残っているケースがあります。打撲や捻挫後に残った神経症状、醜状痕、外傷性神経症、 関節の機能障害、耳鳴り、下肢短縮など、多くの後遺症には、その可能性があります。

詐病などではなく、本当に後遺症が残っていても、基準に該当しなければ等級は認定されません。 例えば下肢短縮は1センチメートルであれば13級で自賠責から139万円が支払われますが、 5ミリメートルでは非該当となり、自賠責保険の支払いは受けられません。顔面に傷が残った時は3センチメートルの線状痕なら12級で自賠責から224万円 が支払われますが、1.5センチメートルの線状痕なら非該当で0円となります。自賠責保険ではこの間を埋める方法はなく、後遺症のごくわずかの違いから、 補償額が何百万円も違ってくることになるのです。損害賠償請求の実務でも、後遺障害に関する損害は、自賠責保険の認定等級に従って計算されるのが通常です。 しかし自賠責保険のように、非該当の場合は補償が無いという決まりが存在するわけではありません。 非該当であっても「損害の発生」があれば、損害賠償請求が認められる余地があるのです。

非該当の判断は、機能的、器質的に基準に達しない場合と、相当因果関係が認められないために非該当とされている場合があります。 このうち相当因果関係が認められない場合は「交通事故の後遺症」としての要件を欠く事になりますが、 後遺障害の基準以下であるものの、機能障害が存在するとか、醜状が残っている場合には、慰謝料が認められるケースもあります。 ただし損害が発生している事の相応の証明が必要となるため、認められるとしても裁判上の請求に限られると考えた方がよさそうです。

時効

自賠責保険(加害者請求)の時効

  • ・被害者に損害賠償金を支払った日の翌日から3年
  • ・支払いが複数回に及ぶ場合は、それぞれを支払った日の翌日から3年

自賠責保険(被害者請求)の時効

  • ・傷害分については事故があった日の翌日から3年
  • ・後遺障害分については症状固定日の翌日から3年
  • ・死亡については死亡日の翌日から3年

自賠法16条1項の被害者請求は、後遺障害による損害については症状固定の翌日から3年で時効により消滅することとされています。 任意保険会社による一括払い手続き中であっても、自賠責保険の被害者請求の消滅時効は中断しませんので、 後日一括払いを中止して被害者請求に切り替える場合は、時効を中断しておく必要があります。 時効は自賠責保険会社に対して「時効中断申請書」を提出することにより中断ができます。 一括払いを継続し、被害者請求を行う予定がない場合は、被害者が自賠責保険の時効について中断等の手続きをする必要はありません。

任意保険の時効

一般の損害賠償請求における消滅時効は、被害者が損害および加害者を知りたるときから進行を始め、3年で完成します。 具体的には、後遺障害による損害は症状固定の翌日から進行を開始するとされるのが一般的です。 自賠責保険への時効中断申請書による時効中断手続きでは、一般の損害賠償請求権の消滅時効を中断させることはできませんので、 承認や請求などの民法上の時効中断事由を手当てしておく必要があります。