後遺障害診断書の症状固定日の決め方

交通事故オンライン後遺障害編

伊佐行政書士事務所
〒278-0051千葉県野田市七光台316-17
  1. 症状固定とは
  2. いつ頃を症状固定日にすればよいのか
  3. 症状固定と損害賠償
  4. 症状固定日をめぐる問題点
  5. 就労不能期間

症状固定とは

後遺障害等級認定は、傷病が治った時以降に行ないます。治った時とは、医学上一般に承認された治療方法をもってしてもその効果が期待できず、残存する 症状が自然的経過によって到達すると認められる最終の状態に達したことをいい、これを症状固定といいます。

わかりやすく言い換えますと、後遺症がそれ以上はよくならない状態に落ち着いた時のことをいいます。 治療を行うとしばらくは楽になるが、またすぐに戻ってしまい、長期的に見れば快方には向かっていない状態も症状固定とされます。 「治った」といっても後遺症が残らずに治ったという意味ではないことに注意してください。

いつ頃を症状固定にしたらよいかは患者ごとに判断すべきことで、その傷病ごとに一律な期間が決まっているわけではありません。 症状固定をいつにするかということは、一般的には医師の意見を尊重して決められます。 具体的には、むち打ち症などでは、治療に行った後は少し調子がいいが、すぐまた元に戻ってしまうというような一進一退の状態が続く場合は、 症状固定とされます。骨折の場合は骨癒合が得られたときとされることが多いですが、関節近くの骨折等で機能障害がある場合は、リハビリが終了した時点を 症状固定とすることが多いです。

いつ頃を症状固定日にすればよいのか

頚椎捻挫、腰椎捻挫

ケースバイケースですので一概にいえることではございませんが、参考までに当事務所にご相談いただいた方たちの、 症状固定日までの月数を集計した散布図をご紹介します。多くは5ヶ月から1年くらいまでの間に症状固定とし、 約9割の人たちが15ヶ月以内に症状固定としています。

骨折など

骨折の度合い(ひびが入っただけとか、開放性の骨折だったなど)や、被害者の年齢等によっても大きく異なりますが、ほとんどの医師は骨癒合の 状態で判断しています。半年とか1年というのをよく見かけますが、骨癒合が遅れたり、抜釘をする場合などは、 症状固定が2年後くらいになるケースもあります。

  • 8歳男子 右腓骨骨折 4ヶ月で症状固定
  • 19歳女子 右肋骨骨折 5ヶ月で症状固定
  • 38歳男子 左脛骨プラトー骨折 12ヶ月で症状固定
  • 53歳男子 右鎖骨骨折 8ヶ月で症状固定
  • 75歳女子 左大腿骨頚部骨折 14ヶ月で症状固定

高次脳機能障害

脳の状態の変化(脳室拡大など)やリハビリによる症状の改善傾向等により決めてゆくことになるでしょう。 当事務所の経験、医学論文、裁判例などに現れた事案等を見ますと、1年半~2年程度を症状固定の時期としている例が多いように見受けられました。

  • 22歳男子 頭蓋骨骨折、脳挫傷 18ヶ月で症状固定
  • 25歳男子 左側頭骨骨折 脳挫傷 24ヶ月で症状固定
  • 33歳男子 頭蓋骨骨折 脳挫傷 20ヶ月で症状固定

症状固定と損害賠償

治療費が自己負担になる

症状固定となると、それ以降の治療は必要なくなりますので、 保険会社からの治療費の支払いはなくなります。将来の治療費も請求できるような特殊なケースを除いて、 それ以降にうける治療については、被害者が自分で費用を出すこととなります。

「症状固定にすると、もう治療を受けられないのですか?」というご質問がよくあります。保険会社に「治療を終わりにしてください」 とか、医師に「もう当院では治療はできません」といわれることから生じる誤解です。治療ができなくなるということではなく、 「(保険会社はこれ以上治療費をお支払できません。自由診療での)治療は終わりにしてください」 「(これ以上治療を続けてもよくなることはないので)もう当院では治療はできません」ということですので、 治療費を自己負担とすることで、その病院での治療を続けることは可能です。ただ医師の中には、薬など、病院での治療に頼るより、 日常生活の中で少しづつ慣れていったほうが、この患者さんのためになるという親心で「もう治療はできない」という人もいます。 また、交通事故の患者とは関わり合いになりたくないからという理由で「もう来ないで」という人もいます。 こういう場合でもほかの医療機関で自由に治療を受けることができます。

休業損害も支払い打ち切り

それまで支払われていた休業損害も、症状固定後は支払われなくなります。 症状固定以降の休業損害は、逸失利益という形で支払われることとなります。ところが休業損害と違い、 後遺障害等級が認定されなければ、逸失利益の請求は認められません。等級の重さによって労働能力喪失率が決まっているからです。後遺障害が非該当だと、 労働能力喪失率も0%ですので、仮に後遺症のために支障があったり、収入が下がったりしていた場合でも、原則として逸失利益が認められることはありません。

だからといっていつまでも症状固定にせず、治療費や休業損害を支払ってもらい続けることはできませんので、傷病名、治療経過、医師の意見、 裁判例等を参考にして妥当な期間内に症状固定としてください。

逸失利益・・・後遺障害があると労働に影響があるのが通常ですので、将来減収になったり、 減収にならなくても、そのためには特別な努力を強いられると考えられます。そうした将来にわたって発生する可能性のある減収分(得られたはずの利益の喪失) のことをいいます。

症状固定日をめぐる問題点

症状固定日をいつにするかというのは、後遺障害の等級認定の結果や、損害賠償請求できる金額を左右する重要な問題です。 保険会社の都合で決められるような性質のものではありません。かといって被害者の気分次第で決められるものでもありません。 客観性を保つためには、医師の医学的知見に従って決められるのが理想ですが、この判断も医師によってバラツキがあります。

症状固定とはそもそも医学用語というよりも、障害等級認定のための概念であって、医師の仕事である「治療」とは縁の薄いものです。 純粋に医学的見地から「何月何日を症状固定日とする」と決められるような性質のものでもないため混乱が生じます。 一般的には、保険会社からの医療照会を受け、治療効果が薄れて症状が一進一退となったころに、医師が被害者に対して症状固定とすることの同意を求めます。 医師としても強引に症状固定とすることによって、被害者との関係を悪化させたくないのです。 しかし中には保険会社に「もう治療費は払えません」といわれただけで、被害者に対して症状固定を宣告する医師もいるのです。 明らかに不相当な時期にそういわれた場合は、被害者としては安易に症状固定に合意しないことも必要です。

症状固定とすることが妥当な状態であるにもかかわらず、症状があるから、治療効果があるからという理由だけで自己中心的に延々と治療を引き延ばした場合は、 後日損害賠償請求を行う上で不利益を被る場合もありますので、注意が必要です。例えば二年間治療したあとに、裁判所で症状固定日が事故から一年間目までと認定された場合は、 後半一年間分の治療費は自己負担となってしまう可能性があるのです。 医師が症状固定ではないといったとしても、そのことのみで法的に症状固定でないと保証されるものではありません。注意が必要です。

医師により症状固定日が違う場合

【Q】事故から9ヶ月が経ちました。 それにともない、現在通ってる整形外科の先生より そろそろ 症状固定で保険会社へ伝えるというお話がありました。 治療内容は足首の骨折・頚椎損傷・打撲です。 保険会社からも後遺症診断書が送られてきました。 しかしながら、まだ頭痛と 足の骨折あとの痛みが続い ているのが現状です。 頭痛については脳神経外科へ平行して通院しております。 こちらの先生の意見はまだ頭痛が続いてるので、 症状固定はしないように保険会社へ報告してあげますとのお話でした。 2人医師の意見が違うものとなってる場合はどのような対処方 法がよいでしょうか? 整形外科の先生に後遺症障害の申請書を書いてもらうつもりですから、 いままでの信頼関係を壊したくないというのが、現実としてあります。 どのように今の先生に伝えたらいいのでしょうか? それとも一旦症状固定にして、自費で通ったほういいでしょうか。

【A】負傷された部位によって、別々に症状固定とすることも可能です。 例えば頸椎捻挫由来の頭痛については治療を継続し、足首の骨折については症状固定として後遺障害診断書を書いていただくという方法です。 整形外科には「頭痛について脳神経外科で、もうすこし通院しては、といわれていますので、 頸椎捻挫の症状固定はもう少し待っていただけませんか」と、相談してみてはいかがでしょう。 ただそうしますと、後日、頸椎捻挫の症状固定で、また後遺障害診断書を書いていただく必要が出てまいりますので、 いろいろと煩雑になるというデメリットはあるかと思います。 事故当初、頭部に外傷を受け、脳に血腫などがあり、それで頭痛が続いているという状況ではなく、 単に頸椎捻挫からくる頭痛である場合は、今後治療を続けても、あまりメリットはないという場合もございます。 原因がこのようなものであって、脳神経外科の治療が例えば月に一回の経過確認と投薬だけなどという場合は、お考えのとおり症状固定にして、 健康保険で通院された方が良いという考えもできると思います。

就労不能期間

症状固定日と並んでよく問題になるのが就労不能期間です。傷病のために休職している被害者が、いつから働けるようになるのかという問題です。 被害者やその勤務先としては、ほぼ完全に治った状態での復職を望むものですが、保険会社としては完全に治る前でも、働くことが可能であれば すぐに復職してもらって休業損害の支払いを減らしたいという思惑があり、対立します。

就労が可能かどうかは、傷病の回復状況のほか、被害者の自覚症状や職務内容によって大きく異なります。被害者によっては骨折していても就労可能という 人もいますが、頸椎捻挫による指先の痺れがあるだけで就労困難という人もいます。保険会社は、被害者に就労可能かどうかを聞いていては、いつまでたっても 復職してもらえないということになりかねないため、医師の意見を求めます。医師が就労可能というお墨付きを出せば、休業損害の支払いをやめる口実となるからです。 しかし就労可能かどうかというのは、前述のように被害者の職務内容に大きく左右されるものですから、必ずしも医師に明確に答えられるわけではありません。 医師としては「就労可能か」と聞かれれば「(医学的に就労を制限しなければならない事情はない。無理をしなければ)就労は可能だ。」と答えることが多いのですが、 保険会社はこの回答を有利に解釈し、就労可能と判断しようとするのです。

なお、休業損害は症状固定までは支払われるべきと考える被害者もいますが、症状固定と就労の可否は全く別の判断基準によるものですので、 混同しないようにしてください。