後遺障害等級認定における他覚的所見

交通事故オンライン後遺障害編

伊佐行政書士事務所
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  1. 他覚的所見の重要性
  2. 画像による他覚的所見がない場合、後遺障害認定はあきらめざるを得ないのか
  3. 画像も万能ではない

他覚的所見の重要性

後遺障害の認定は損害賠償金の支払い手続きという性質上、不正を排除し公平性を担保するため、 客観的な根拠に基づく資料に重点をおいて審査が行われています。 傷病を負って痛みやしびれ、機能障害などの自覚症状がある場合は、その原因となっている何らかの器質的異常が見受けられることが多いですが、 医師の診察や各種検査により患者に見受けられる、症状と牽連する客観性のある異常所見のことを他覚的所見といいます。

例えば神経障害における腫脹の有無、皮膚温度の異常、筋力の低下、握力、腱反射、病的反射の異常、症状の再現テストの異常、筋電図の異常であるとか、 骨折や軟部組織の損傷における画像検査による形態的な異常の描出、筋や骨の委縮、可動域制限などがあります。「首が痛い」「手がしびれる」 「めまいがする」など自覚症状は患者の主観による訴えにすぎませんが、他覚的所見は患者の意思とは無関係の所見 (ただし所見によっては患者の主観が入り込む余地がある)であるため、 たとえ被害者感情の強い者の場合でも、後遺症の存在の客観性が担保されるという意味で、 損害賠償請求にかかる後遺障害等級認定では、特に重要視されています。

自賠責保険の後遺障害等級認定では、適正な損害賠償金の支払いのために、保険金詐欺などのモラルリスクを排除するような調査が求められます。 犯罪を許してはならないのと同時に、不正な請求を野放しにすることは、最終的には保険料の値上がりにつながり、被保険者の不利益となるからです。 そのため自覚症状のみで後遺障害が認定されることはなく、他覚的所見という動かぬ証拠を見つける必要があるのです。

心因性、過剰反応、嘘を排除

例えば膝の関節が二分の一以下にしか曲がらなくなってしまった後遺症は第10級に認定されるという基準があります。 しかし怪我をした被害者が、膝が半分しか曲がらないと訴え、医師が膝の可動域を測っても二分の一以下の可動域しかないという ことだけでは第10級に認定されることはありません。中には本当は曲がる膝を「曲がらない」と嘘をつく人もいれば、過度なストレスにより 心因反応により曲げることができないだけの人もいるからです。心因反応であれば、いずれ回復して後遺症はなくなると考えられていますので、 等級認定はされません。

画像が重要

そのため後遺障害認定には「嘘のつきようのない、客観的な証拠」が求められます。 関節の可動域を医師が測る時も、患者が誠実に検査に協力しなければ、正確な検査が困難となる場合もあります。 ですから可動域の検査や筋力の検査は重要視されません。 ほとんどの後遺症では画像所見が重要視されることになります。通常の怪我であれば他覚的所見として扱われるものも、 後遺障害等級認定においては他覚的所見と扱われないものが多いのです。

画像による他覚的所見がない場合、後遺障害認定はあきらめざるを得ないのか

認定を目指す等級によってはあきらめざるを得ないでしょう。 例えば頚椎捻挫と診断されて14級に認定されている人が、上肢しびれの症状で12級を目指す場合などです。 しかし全ての後遺症において画像所見が最も重要というわけではありません。例えばむち打ち症の場合も、画像以外の所見が重要なケースがあります。 後遺障害の内容により、必要な他覚的所見も違ってくるのです。 ただしよくある誤解にご注意ください。

他覚的所見=画像所見ではない

画像所見だけが他覚的所見ではありません。画像にこだわりすぎて他の方法を見落とすことのないようにしましょう。

適切な検査方法がとられていない

その画像検査は最適な方法でしょうか?より適切な画像検査により異常所見が見つかる場合があります。

見当違いの検査をしていないか

認定を目指している障害とは別の障害を目標とすべきケースがあります。方針転換によって道が開けることもあるのです。

画像も万能ではない

レントゲン、CT、MRIなど、画像診断の分野の発展は目覚ましいものがあります。アナログフィルムからデジタルモニターへ、低解像度から高解像度へ、 二次元像から三次元像へ、コントラストの調整や拡大縮小が容易に行える環境の出現などにより、ひと昔前では考えられなかった小さな異常まで 描写が可能になってきました。 しかし画像検査も万能ではありません。全ての異常を映し出すことはできませんし、異常を映し出すことができても、画像だけで それと症状の結びつきを証明することはできません。そこをしっかりと認識し、画像所見を偏重しすぎないように注意しましょう。

頚椎の前弯減少は他覚的所見とならないか?

頚椎の前弯減少(ストレートネック、後弯形成など)は、もともと頚椎にある生理的前弯が減少・消失している状態を指します。 頚椎レントゲンの所見として、後遺障害診断書にその記載をしばしば目にします。この原因には次のようなものが考えられています。

  • 1)体質的なもの。若い女性に多いといわれています。
  • 2)頚部の痛みによる筋緊張に由来するもの。
  • 3)加齢による変性に由来するもの。

1)や3)の場合は事故とは無関係ということになります。2)が原因の場合は、事故により発生した異常といえますが、 前弯減少が痛みの原因となっているとは考えにくく、広義の他覚的所見とはいえるかもしれませんが、後遺障害等級認定における 「神経症状の原因を証明できる」程度の他覚的所見とは認められない、もしくは「将来においても回復が困難と見込まれる障害とは捉え難い」とされるのが通常です。

椎間板ヘルニアは他覚的所見とならないか?

MRI検査をすると椎間板ヘルニアが見つかる場合があります。被害者としてはこれが原因で後遺症が残っていると考えたいところですが、 椎間板ヘルニアは事故に遭ったことのない無症状の人にも見られる変性です。事故でなる場合もありますが、加齢性の変性である場合が多いため、 椎間板ヘルニアが見つかっただけでは、事故と相当因果関係のある他覚的所見とは認められません。症状経過や他の検査による補強、 画像の経時的変化等による証明が必要となると思われます。