1. 後遺障害診断書とは
  2. 作成できるのは医師のみ
  3. 後遺障害診断書の書き方
  4. 後遺障害診断書の記入例

後遺障害診断書とは

後遺障害診断書(正式には自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書)は認定手続きの要となる書類です。歯科を除いてどの診療科でも原則同じ書式が使用されます。 治療開始日と症状固定日、入院期間、実通院日数、自覚症状や他覚的所見等の認定に必要な情報がまとめて記載できるような書式になっています。 情報が正しく記載されなければ妥当な認定はされませんので、記載内容は大変重要です。 ところが等級の認定自体は医師の役割ではありませんし、どのように記載すると何級に該当するかも知らないのが普通であるため、 出来上がった後遺障害診断書を見てみると、情報不足であることが多いのです。

作成できるのは医師のみ

後遺障害診断書は医師しか書くことができません。整骨院などだけに通院していた場合、整骨院の先生は医師ではなく 柔道整復師ですので、後遺障害診断書は書いてもらえませんので注意が必要です。そのため例えばむち打ち損傷で6ヶ月通院した場合に、 医師の診察を受けずに全て柔道整復師の施術を受けたのみだった場合は、後遺障害等級が認定されることはないと考えた方がよいでしょう(併診は可)。 複数の科を受診し、後遺症が残った部位が例えば耳鼻科と整形外科である場合は、それぞれに書いてもらいますので、後遺障害診断書は2枚になります。 後遺障害診断書は専門分野の医師に書いてもらうのがベストです。

後遺障害診断書を書けるのは医師のみ

細かい記載方法は統一されていない

医師によって書き方はまちまちです。小さい字でびっしりと詳細に書いてくれる先生もいれば、非常に短い単語のみで済ませる先生もいます。 ワープロで記入する人もいれば、解読困難な文字で乱暴に書く人もいます。 後遺障害診断書の書き方について、医師は統一的なトレーニングを受けているわけではありません。そのために内容も表現も様々になります。

例えば既存障害を記載する欄がありますが、患者に確認する医師もいれば、聞かずに未記入のままという医師もいます。 他覚的所見を書く欄では、ある医師は「事故と因果関係のあるものだけ記載」するのに対し、別の医師は「因果関係の有無にかかわらず記載」 しています。後遺障害の種類により記入すべき欄も異なりますが、必要な欄を記入することなく、空欄のままにしている場合も多々見受けられます。

医師は細かい認定基準は知らない

中には詳しい先生もいらっしゃいますが、稀です。医師は被害者の病状等を診断書に記載するだけで、それが等級に該当するかどうかは、 損害保険料率算出機構というところで認定基準に照らして判断しますので、医師には直接の関係がないからです。 したがって妥当な認定を受けるためには、医師に任せきりではよくありません。 後遺障害診断書を医師に記入してもらったら、保険会社に提出する前に見せてもらって、内容に不備がないか確認したほうがよいでしょう。 場合によっては情報の補足をお願いしたり、必要な検査依頼やその理由の説明を被害者から積極的にすべきです。

診断書の記載内容は、客観的根拠に基づくものでなければなりません。 受傷機転、症状経過、検査所見などを考慮した診断が望まれます。ところが実際は、どのような事故だったのか知らないまま治療を続けたり、 症状経過についてあまり注意を払わない医師もいます。逆に被害者擁護の意識が強すぎ、安易な臨床診断をする医師も存在します。 これは被害者にとっては好都合かもしれませんが、 反対に加害者にとっては不当に権利侵害を受けるきっかけとなる可能性もあります。

臨床医の主要な仕事は患者の治療であって、診断書作成はそれに付随する業務にすぎませんが、 後遺障害診断書は、交通事故の被害者補償において要となる診断書であり、大変重要な意味を持っています。 こうした社会的要請を認識し、医学の専門家としての知見に基づき作成されることが期待されています。

作成後の手続き

後遺障害診断書を書いてもらったら、①任意保険会社経由で認定を受ける(事前認定)、②自分で自賠責保険会社に対して手続きを行う(被害者請求)、 という方法があります。 どちらがよいかは一概にはいえません。それぞれメリット、デメリットがあります。手続きが簡単なため①の方法が採られることが多いようですが、 保険金の支払いを早く受けたい場合などは②の方法を選択できます。

診断書の作成料

後遺障害診断書の作成料は医療機関ごとに自由に決められており、5千円~1万円程度のことが多いです。 任意保険会社が払ってくれるケースが多いですが、中には非該当だと払えないといわれるケースもあります。 診断書作成にかかる時間は医師によりまちまちですが、1~2週間程度で書いてくれるのが平均的な例です。

後遺障害診断書の書き方

各項目の書き方

ここでご紹介する記入例は、必ずしも理想的な内容をご紹介するものではありません。 同じ内容でも認定される場合もあれば、認定されない場合もあります。理想的な記載内容は、ケースごとに異なります。 誤解されやすいことですが、等級認定は後遺障害診断書だけで決められるわけではありません。 同じ内容の後遺障害診断書でも認定結果に差が出る場合があるのです。

(1)氏名など

氏名、住所や生年月日など、患者を特定するための情報を記載します。 しばしば年齢や職業が記載されていないことがありますが、特別問題はないようです。

(2)受傷年月日

受傷した年月日を記載します。

(3)症状固定日

それ以上治療を続けても回復の見込みがないという時点を症状固定日といいます。 それまでの治療・通院状況などを考慮し、医師の医学的知見をもとに決められるべきことです。しかし現実には保険会社の意向や被害者の希望、 医師の診断書記載方法に対する誤解などから、重要な記載事項であるにもかかわらず、不適切な時期が症状固定日として記載されることもあります。

  • 時期が適切かどうかは別にして、一般的には、次のように決められることが多いようです。
  • 1)医師と相談の上、被害者自身が治療効果が一進一退であると納得したうえで治療を中止した日
  • 2)保険会社に治療費支払いを打ち切られたため、仕方なく治療を中止した日
  • 3)骨折の場合、骨癒合が完了した日。ただし関節の損傷を伴う場合などは、リハビリが終了した日

症状固定日の決め方

(4)当院入通院期間

その病院での入通院期間を記載します。転院した場合は、転院前の入通院については記載されないことになりますが、 事故からの入通院状況は、月々の診断書と診療報酬明細書などにより、自賠責保険側に情報が伝わっています。

入院が二回に分かれている場合は記入欄がありませんが、小さく書く、欄外に書くなどして下さい。

(5)傷病名

治療期間中の傷病名を記載します。後遺症に係る傷病名など、主要なもののみ記載する場合もあります。頚椎捻挫、脳挫傷、頚髄損傷などと記載します。

(6)既存障害

被害者から聴取し、または過去の通院歴から記載します。既往歴ではなく『既存の障害』という言葉から考えますと、 事故前から精神または身体機能的に問題を生じていた場合のみ記載すればよいと思われますが、 単に通院歴があるというだけで記載する医師も多いです。その場合、過去の通院歴が今回の後遺症に影響を与えていなければ、その旨コメントしたほうがよいでしょう。

(7)自覚症状

被害者の訴えている症状固定時の症状を書きます。通常は端的に頚部痛、記憶障害、排尿障害、頭痛などと記載します。 治った症状もある場合は「頚部痛は軽減したが左肩痛は残存。」などと書く場合もあります。 ここに書かれていない症状は後遺症として検討されないため、漏れなく記載します。

(8)精神・神経障害/他覚症状および検査結果

画像等の検査から他覚的所見といえるものを書き出します。ヘルニアやストレートネック、椎間板腔狭小化など。 外傷によらない退行性変性であっても、記載したほうがよいでしょう。 神経学的検査を実施した場合は、その結果も記載します。

(9)障害内容の増悪・緩解の見通し

後遺症について、軽減、不変、増悪、緩解など、診断書作成時点での今後の見通しを記載します。 医学の専門家としての意見を書けばよいのですが、その医師の考え方や『後遺障害診断書』というものの目的の捉え方により、 記載される内容に差が出てしまい、それが認定に影響を与えます。 緩解(寛解)とは、症状が軽減、安定している状態を表す言葉です。

頚椎捻挫などの後の神経障害が、いつ頃まで続くのか医学的に見通しを立てるのは容易なことではないと思われます。 因みに損害賠償請求の裁判例では、明確な他覚的所見がある場合は長くて10年、ない場合は長くて5年として損害を計算する傾向にあります。 つまり後遺障害として認定されても、症状が一生続くというようには考えられていないのです。 しかしこの欄に『軽減している』と記載すれば、ほぼ100%後遺障害の認定は非該当となります。 矛盾があるようですが、こうした実情を理解した上でこの欄が記載されることが望ましいといえるでしょう。

胸腹部臓器・生殖器等の障害

循環器の障害であれば心電図、生化学検査のデータのほか、障害のために制限される運動の内容などについて記載することが考えられます。 臓器の切除を行った場合は、臓器名と切除した範囲を記載することが考えられます。

眼球・眼瞼の障害

視力や調節機能障害、視野など、該当する項目を記載します。必要に応じて受傷した原因や他覚的所見を記載します。

聴力と耳介の障害

聴力検査は7日以上の間隔を開けて3回行います。耳鳴、耳漏、内耳損傷による平衡機能障害がある場合はその旨記載します。

そしゃく・言語の障害

障害の原因となっている上下咬合、排列状態、咬筋の状態などについて記載します。 そしゃくが可能か不能かを具体的に記載する食物の例としては、ご飯、煮魚、たくあん、せんべい、ピーナッツ等があります。 発音不能な語音(口唇音、歯舌音、口蓋音、喉頭音)を記載します。

醜状障害

醜状(瘢痕、色素沈着、線状痕、ケロイド)の形や大きさについて図示します。 色や凸凹の有無など、細かい点については認定前に面接が行われます。

脊柱の障害

骨折や脱臼の部位、可動域、荷重機能の障害のため常時コルセットを着用する必要があるか否かを記載します。 脊柱の側弯については、コブ法により計測され、等級認定されます。

体幹骨の変形

鎖骨・肩甲骨・胸骨・骨盤骨・肋骨について変形がある場合は、その旨記載します。裸体になってわかる程度という基準がありますが、 XPで変形が明らかな場合は、記載しておいた方がよいでしょう。

上肢・下肢および手指・足指の障害

短縮、過成長、変形、欠損、可動域制限等について記載します。可動域は自動運動、他動運動とも計測します。

被害者は、医師に書いて欲しいことを頼むべきか

医師は医学の専門家として自らの知見に基づいて診断書を書きます。 それに対して被害者側から注文をつけるというのは好ましいことではありません。 しかし現実問題として、等級認定手続きに必要な項目が全く書かれていない診断書も しばしば目にします。そういった場合は加筆していただくか、別の診断書をお願いする必要が出てきます。 加筆等の理解を得るためには、お願いするタイミングや、的を得た医療照会が重要なポイントとなってきます。 医療照会などについて、心配な方は弊事務所にご相談下さい。

当然のことですが、診断書の作成者以外のものが診断書に加筆や訂正をすることはできません。 例えば被害者の年齢や職業欄が無記入だった場合でも、勝手に加筆してはいけません。 そのまま提出するか、医師に加筆をお願いしてください。

医師に後遺障害診断書を書かないといわれたら

たまに後遺障害診断書をかけないといわれる場合があります。原因はいくつか考えられますが、 そもそも後遺症が残っていないので書けないといわれる場合もあります。 しかし医師の目から見て後遺症ではないと見えることでも、自賠責では後遺障害として認定されるケースもあります。例えば醜状痕であるとか、 後遺障害別等級表に記載されていない後遺症の場合です。こういうケースでは認定基準等を医師に説明し、 必要な事項を診断書に記載していただくようお願いしてみましょう。

その他にも、健康保険や労災で治療をしていた場合に「自賠責保険用の後遺障害診断書は書けない」といわれる場合があります。 健康保険や労災で治療をしたからといって、自賠責保険用の後遺障害診断書を書いてはいけないということはないのですが、実際に拒否されてしまうケースがあります。 この場合は通常の診断書の様式で書いてもらっても後遺障害の認定申請は可能ですが、記載内容に不足があり、思うように手続きが進まなくなる可能性が大きいです。

後遺障害診断書の記入例

記載は医師の自書でなされるのが一般ですが、ワープロにより記入されたものでも構いません。医療機関名と医師の記名押印は必須です。

後遺障害診断書
【頚椎捻挫・腰椎捻挫】
傷病名頚椎捻挫、腰椎捻挫
自覚症状項頚部痛、右肩痛、腰痛
他覚症状および検査結果jackson's test +
XP上C5/6に退行性変性あり
障害内容の増悪・緩解の見通し症状は長期間続くと思われる
その他の項目頚椎に可動域制限がある場合は、運動障害の欄に可動角度が記載される場合があります。
【嗅覚障害】
傷病名頭部外傷、急性硬膜外血腫、嗅覚障害
自覚症状事故後から臭いが全くしない
他覚症状および検査結果静脈性嗅覚検査にて無反応
障害内容の増悪・緩解の見通し神経断裂は確認できないが、受傷の程度と症状からすると、嗅覚の回復はないものと考える
その他の項目⑤鼻の障害の項目(ハ)嗅覚脱失に丸印を付けます。
【脳脊髄液減少症】
傷病名頚椎捻挫、脳脊髄液減少症
自覚症状僧帽筋痛、頭痛、腰痛、倦怠感
他覚症状および検査結果スパーリング、ジャクソンテスト(-)
腱反射正常
C6領域に知覚異常
RIシンチにより髄液漏れ
障害内容の増悪・緩解の見通し頭痛、倦怠感が長期間続く。この状態は今後も続くと考える。
その他の項目
【片麻痺】
傷病名頭蓋骨骨折、脳挫傷、急性硬膜下血腫
自覚症状右軽度片麻痺
他覚症状および検査結果頭部CTにて前頭葉に脳挫傷
XPにて頭蓋骨骨折
脳波異常値は改善した
障害内容の増悪・緩解の見通し症状固定と判断する
その他の項目
【高次脳機能障害】
傷病名外傷性くも膜下出血、脳挫傷、高次脳機能障害
自覚症状頭痛、めまい、頚部痛、右下肢痺れ、思考力、記憶力の低下
他覚症状および検査結果JCS Ⅱ-10
MRIにて脳挫傷
HDSR22点
障害内容の増悪・緩解の見通し症状は固定しており、これ以上の回復は困難と思われる
その他の項目
【難聴】
傷病名右側頭骨骨折、頚部捻挫、右混合性難聴、右耳鳴症
自覚症状右難聴、右耳鳴り
他覚症状および検査結果
障害内容の増悪・緩解の見通し難聴、耳鳴は長期間持続する可能性がある。
その他の項目④聴力の項目にオージオグラムによる聴力検査結果を記載します。右28.5、左5.5など。
【膝関節機能障害】
傷病名右脛骨高原骨折
自覚症状右膝痛、右膝可動域制限
他覚症状および検査結果XP上右脛骨骨折部に不整を認める
大腿周径 右38cm、左40cm
障害内容の増悪・緩解の見通し右膝痛、可動域制限ともに改善する見込みはない
その他の項目関節機能障害の項目に関節可動域の自動値および他動値が記載されます。
【中心性脊髄損傷】
傷病名頚椎捻挫、中心性脊髄損傷
自覚症状頚部痛、体幹しびれ、右上肢しびれ・脱力、不眠
他覚症状および検査結果右手指感覚障害により書字困難
尿漏れ
MRIにて輝度変化認める
PTR+ ATR+ 
障害内容の増悪・緩解の見通し症状固定
その他の項目
【TFCC損傷】
傷病名左手関節捻挫、TFCC損傷
自覚症状左手関節部疼痛、動作時痛
他覚症状および検査結果MRIにてTFCC損傷を認める
障害内容の増悪・緩解の見通し疼痛および動作時痛を残し症状固定
その他の項目
【胸郭出口症候群】
傷病名頚部捻挫、胸郭出口症候群
自覚症状頚部痛、右上肢しびれ。プログラマーの仕事に支障がある。
他覚症状および検査結果adson's test+ XP np
障害内容の増悪・緩解の見通し症状固定と考える
その他の項目