ヘルニアなど/むち打ち症の周辺疾患

交通事故オンライン後遺障害編

伊佐行政書士事務所
〒278-0051千葉県野田市七光台316-17
  1. 椎間板ヘルニア
  2. 頚椎症
  3. 打撲・挫傷・捻挫
  4. バレーリュー症候群
  5. 低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)
  6. 胸郭出口症候群
  7. 外傷後神経症
  8. その他の疾患

(1)椎間板ヘルニア

椎間板とは、椎骨と椎骨の間に挟まれ、クッションのような役割を役割をしているものです。若年者は水分が多く弾力性も強いですが、 加齢とともに水分が失われ、硬くなってきます。通常は椎体からはみ出る事はないのですが、加齢とともに上下の圧力によって一部がはみ出したりして、 周辺の脊髄や神経根を圧迫し、痛みを発生させる事があります。このはみ出した状態の事をヘルニアといいます。 事故でMRIを撮るとヘルニアと診断される事はよくありますが、それは必ずしも事故のせいで椎間板がはみ出したということではありません。 もともとヘルニアがあったが、事故前まで無症状だったという人の方が多いのです。 重ねてその症状がヘルニアからきているものなのかどうかも診断は容易ではありません。 単に腰の打撲で痛みがあるだけで、たまたま無症状のヘルニアがMRIに写っているだけという事も考えられるのです。 出現する症状によって、ヘルニアが原因なのかそうでないのかはある程度推測ができますので、 異議申し立てをすべきかどうかも、こうした点を考慮する必要があります。

椎間板ヘルニアで12級になる可能性

ヘルニアで12級にならないかというご質問をしばしばいただきます。一般的な回答としては、第12級になる場合もあるが、 数の上では少ないという事になろうかと思います。

一概に線引きをするのは難しいのですが、ヘルニアで12級になるには椎間板ヘルニア自体の程度がそれなりのものであることが必要です。 ヘルニアの程度は軽い方から順に、膨隆→突出→脱出と分類されますが、膨隆程度で12級に認定されることは少ないと思われます。 そしてヘルニアの部位や方向と受傷後の症状、その推移、重ねて神経学的所見が矛盾なく証明できる場合は12級となる可能性が高くなります。

医師がどういう傷病名を付けているかという事もある程度参考になります。頚椎捻挫という傷病名で、MRIなどの所見として椎間板ヘルニアと 記載されているに過ぎない時は「MRIでヘルニアは確認できるが、症状との関係は不明若しくは無関係」と考えている可能性があります。 対して外傷性頚椎椎間板ヘルニアなどの傷病名がつけられている場合は、医師もヘルニアの程度や神経学的所見を細かく確認した上で 診断名を付けている可能性が高いでしょうから、12級に認定される可能性も比較的高いものと思われます。

(2)頚椎症

頚椎症(頚部脊椎症)とは、椎間板の経年性変化によって引き起こされる骨棘の形成や軟部組織の肥厚、靭帯の骨化などの病変の総称です。 頚椎症という診断がされた場合は、事故によって原因となる病変が引き起こされたというよりは、加齢現象によって病変が存在していたところに事故に遭い、 検査したことによって病変に気がついたと考えるほうが妥当であるようです。

病変の状態により脊髄を障害したり神経根を障害したりするため、それに関連した上肢や下肢の疼痛、しびれなどの症状が出ることになります。 頚椎症と診断されると、症状が外傷とは無関係ではないのかという疑問をもたれる場合がありますが、その病変が症状の原因とは限らないため、後遺障害が認定される場合もあります。

(3)打撲・挫傷・捻挫

打撲とはよくいう打ち身の事で、事故以外でも経験のある方が多いと思います。ぶつけた部分が青くなったり、腫れたりします。 軽度の場合はシップを貼る程度でよく、せいぜい1~2週間で治癒するようですが、程度と部位によっては病院で診てもらった方がいい場合もあるようです。 関節付近の打撲では、後々関節機能に問題を起こすきっかけになるようなケースもあります。 挫傷というのは皮膚の内側の組織が傷つくことをいいます。筋肉繊維や腱、内臓や脳を損傷したときも挫傷という言葉が使われることがあります。 捻挫というのは関節のじん帯や腱の損傷をいいます。

交通事故の診断書を見ると、「右肩打撲」「頚椎捻挫」「頚部挫傷」「腰部挫傷」などという言葉が書かれています。 打撲・挫傷・捻挫というと、一般的には軽傷のイメージがあるためか、加害者となった方からよく次のような相談を受けます。 「原付で自転車の人とぶつかってしまいました。私が悪いので、きちんと補償したい気持ちはあるのですが、最初の診断書が打撲で全治2週間となっているだけなのに、 被害者の人はもう4ヶ月も通院をしています。慰謝料目的でごねられているのではないかと心配です。どうしたらいいのでしょうか。」 保険会社が間に入ってくれない場合などは、加害者側と被害者側では遠慮などがあり、意思や情報の伝達が上手くいかないため、 誤解も生じやすく、双方疑心暗鬼になります。 そこで打撲なら1ヶ月もかからないだろうという思い込みができて、まじめに治療に通っている被害者を非難し、 更に関係は悪化していきます。

長期化するケースも

初期の診断書で打撲と診断されても、なかなか痛みが引かないために、より高度の検査をし、軟骨が損傷しているのがわかった等の理由で、 加害者側の想定していた期間通りに治療が終わらないケースもあります。 後遺障害が残るケースもありますので、加害者側になったときは、打撲とか捻挫とかの診断名を聞いて、安易に軽傷ときめつけることは避けたほうがいいでしょう。

(4)バレーリュー症候群(Barre-Lieou syndrome)

交通事故でむち打ち症と診断されたとき、肩や首の痛みの他に、頭痛やめまい、吐き気、耳鳴り、難聴、動悸、声がかすれる、 異常発汗、下痢などの症状が続くことがあります。これらの症状は、頚部周辺の自律神経系のうちの交感神経系の過緊張状態や椎骨動脈の循環障害などから発生すると考えられています。 代表的な治療法は神経ブロック注射です。これによって頚部周辺の交感神経の過緊張状態を緩和させます。 星状神経節ブロック(喉の辺りに針を刺します)が多いようですが、大後頭神経ブロックや腰部硬膜外ブロックなども行われます。 ブロック注射の回数は、医師や患者の症状によりまちまちです。内服薬による治療もあります。 バレーリュー症候群は、比較的長期間症状が軽快しない事例が多いようです。そして原因もはっきりとしないために、保険会社から治療の打ち切りを要求される場合があります。 画像診断で異常が認められずに、後遺障害等級認定も難航します。 バレーリュー症候群は様々なストレス因子が引き金となっていると考えられている事も問題を複雑にしています。

バレーリュー症候群の後遺障害等級

傷病名の欄にバレーリュー症候群と書かれている方の後遺障害等級認定は何度か経験しております。非該当の方、14級の方、12級の方もいらっしゃいますが、 認定される方のほとんどは14級です。

(5)低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)

交通事故でむち打ち症と診断されたとき、肩や首の痛みの他に、頭痛やめまい、吐き気、耳鳴り、難聴、 下痢などの症状が続くことがあります。 これらの症状は、脳脊髄液が減少することにより起こることがあるとされ、長期間改善しない、起立性の頭痛があるなどの条件がそろうと低髄液圧症候群と診断される場合があります。 よく耳にする治療法は安静臥床や硬膜外自家血注入方(ブラッドパッチ)です。 ブラッドパッチは漏出部位の脊椎硬膜外腔に自家血を注射し、 血液が糊状に凝固し癒着をする事によって漏れを塞ぐとされます。一回の治療で症状が改善されればいいのですが、 必ずしもそうではなく、複数回の治療が必要なケースが多いようです。この治療方法をとるかどうかは、医師と相談の上、慎重に判断すべきです。 低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)は、比較的長期間症状が軽快しない事例が多いようです。

確定診断が難しい

診断基準が複雑です。ごく限られた検査結果や症状から確定診断をすることはできず、総合的に判断しなければならないため、わかりにくいといわれています。 座位または立位による頭痛、項部硬直、耳鳴、聴力低下、光過敏、悪心、MRIによる硬膜増強像、RIシンチによる髄液漏出像、髄液圧の低下などの所見があれば診断できますが、 どれかひとつとか、一定の組み合わせで確定診断ができるわけではなく、総合的な判断が大切といわれています。

医学界での認知度も低く、原因もはっきりとしないために、保険会社から治療の打ち切りを要求される場合があります。 症状が強い場合は仕事を続けるのが困難になる方が多く、やむを得ず退職し、経済的にも追い込まれるケースがあります。 事故と本症との因果関係も、立証が難しくなかなか認められません。 そのような場合にどのように対応すべきかということはケースによってまちまちですので、 専門家に相談されて、ご自分に合った解決方法を見つけられたほうが良いと思います。

(6)胸郭出口症候群

胸郭の出口というのは、首の付け根の辺りの部分を指しています。腕や手指に向かって伸びている、 頚椎からの神経の束、鎖骨下動脈、鎖骨下静脈などが周辺の骨や筋に牽引・圧迫されて起きる障害です。 腕や手に、しびれや痛みを感じたりします。むくみ、発汗異常、頭痛、吐き気、めまいなどの自律神経の異常を認める場合もあります。 治療は消炎鎮痛剤などの飲み薬やシップを処方されることがあります。理学療法が行われることもあります。 症状が重い場合は、圧迫の原因を取り除く手術が行われる場合があります。 胸郭出口症候群は、先天的な体形によって発症しやすかったり、職業病として発症することが多いことから、 相手側から素因減額の主張がされることが多くあります。 素因が関与していないと考えるべきケースもありますが、事故の衝撃の程度や、 その人の職業などを総合的に考えて 素因の関与が濃厚な場合には、一定の減額を受け入れるのも円満な解決のためのひとつの方法かもしれません。

胸郭出口症候群で12級が認定された一事例

事故態様

33歳主婦が自転車で車道を通行中、狭路から出てきた車と接触しそうになり停止。車は自転車に気がつかずそのままゆっくり進行。 自転車のハンドルが車体に押され、被害者は転倒しないようにこらえたが、こらえきれずにその場で転倒した。

症状および治療

初診総合病院にて頚部捻挫、左肩打撲、腰部捻挫と診断。項頚部痛及び左肩痛、左上肢しびれ、腰部痛を訴え、投薬および物療による通院加療開始。 約一ヶ月後に自宅近くの整形外科へ転院し、胸郭出口症候群の診断。治療方法は特に変更なく、8ヶ月通院し、症状固定とした。後遺症は左上肢痛およびしびれ。 雑巾が絞れない、買い物袋を左手で持ち運べない等の支障がある。

後遺障害等級

初回認定結果は非該当。理由は画像上、骨折や脱臼は認められず、その他神経学的所見に乏しく、治療経過などを見ても後遺障害の残存は認められないというもの。

異議申し立て

胸郭出口症候群による12級認定を目標に異議申し立ての対策を検討。医師への検査依頼およびその結果に基づく診断書の作成を依頼。別の病院で紹介による画像検査実施。 その他の資料を添付し異議申し立てを行い、第12級13号に認定される。

(7)外傷後神経症

事故による受傷後、外傷に見合わないような長期間にわたり、頭痛、めまい、易疲労感、抑うつ気分などの心身症的な症状を訴えるケースがあります。このような心因性による心身の機能障害を 外傷後神経症という場合があります。器質的障害とは考えられず、不定愁訴、誇張、強い被害者意識などが見られる場合に診断される傾向にあります。ヒステリー性障害型、誇張・詐病型、心気・不安型、 神経衰弱型などに分類することができます。

(8)その他の疾患

そのほか、むち打ち損傷と似た症状を呈する疾患としては、第二頚椎の歯状突起骨折、脊椎辷り症、骨粗鬆症、メニエール病、更年期障害、高血圧症などがあげられます。