- どんな時に異議申し立てをするべきか
- 非該当の原因を分析し計画を立てる
- 後遺症の認定条件を揃える
- むち打ち症で、非該当を14級にするためのポイント
- むち打ち症で14級を12級にするためのポイント
- 自賠責保険では14級、裁判で12級に認定された例
- 医師に頼めば異議申し立て用の診断書を書いてもらえるのでしょうか
どんな時に異議申し立てをするべきか
等級認定の結果に納得がいかない場合は、異議申し立てをすることができます。しかしやみくもに異議申し立てをしてもよい結果は得られません。 むち打ち症で3カ月しか治療をしていない人が異議申し立てをしても、まず認定されることはありません。あきらめた方がよいでしょう。疲れた時だけ痛むとか、寒い時期にだけ痛むという人も後遺障害としては認められない扱いですので、異議申し立てはせず、あきらめた方がよいということになります。
14級に認定されている人が、12級を目標に異議申し立てをする場合は他覚的所見が必要ですが、これがない場合はやはりあきらめた方がよいでしょう。ただし証明方法を知らないために他覚的所見を見つけられないという状態の方も多いので、その場合は専門家に相談することにより道が開けてくる場合もあります。例えば診断書の記載内容が不足していた、必要な検査が行われていなかった等の場合です。
必要な書類は?
異議申し立てに必要なのは「異議申立書」という書類です。保険会社に頼めば送ってもらえます。より確実に判断を変更してもらうためには、診断書、意見書などの客観的な補強資料を提出するべきです。
異議申立書の提出先
最初の後遺症の認定を任意保険会社を通して行なった場合(事前認定)は任意保険会社あてに、自賠責保険会社へ直接行なっていた場合(被害者請求)は、自賠責保険会社あてに行ないます。ただし、任意保険会社を通して行った場合でも、異議申し立てから自賠責保険会社へ請求することもできます。
費用と時間
自分で行う分には手続き自体は無料です。ただし診断書代や、郵送料は自己負担です。書類を提出してから結果が出るまで、平均では3ヶ月程ですが、半年かかる事もあります。
異議申し立ての結果に納得いかない場合
異議申立ては1回しかできないわけではありません。1回であきらめず、専門の行政書士に相談するのもよいと思います。 専門家に相談することで、新しい道が開ける場合があるからです。 通常の異議申し立てで埒が明かないという場合は、次のステップとして、自賠責保険紛争処理機構に申し立てを行ったり、訴訟を提起する方法もあります。
診断書について
医師に「これ以上違うことは書けない」といわれたというご質問を受ける場合がございます。医師がそのように言うのは「何を書いたらいいのかわからない」という場合が多いのです。どのようなことを書いて欲しいのか、こちらから指定する姿勢が必要です。 何が原因で等級認定されなかったのかを正確に把握し、それを補うことが異議申立てに大切なことなのです。
異議申し立てを行うかどうか決めるには、まずは最低条件をクリアしているかどうかという事を見極める必要があります。 ほかにどんな有力な資料があっても、最低限満たされていなければならない条件があり、 これがクリアできていなければ、認定の可能性はほとんどないからです。例えば、事故後医師の治療を受けていないとか、後遺症が残っている事が診断書に記載されていない場合は条件を満たさず、認定されることはありません。
非該当の原因を分析し計画を立てる
対策はケースバイケースで考える
頚椎捻挫で非該当だったというご相談は後を絶ちません。
異議申立てをするには、なぜ非該当だったのか、あるいは12級にならないのかについて、その原因を正しく理解しなければなりません。 それをせずに異議申し立てを行なっても、よい結論は得られません。例えば事故当初からの治療経過が原因で非該当とされている場合に、 別の医師に新たな診断書を書いてもらうことは適切な方法とはいえませんし、 他覚的所見がないために12級が否定されているのに、自覚症状の重さを訴えるだけで異議申し立てを行なっても、認定はされないでしょう。
14級にならない理由
保険会社から送られてくる等級認定票の別紙には、非該当とされた理由が記載されています。 よく見られるのは「回復の見込みがある」「異常所見がない」といったことです。 これらは参考になりますが、大まかな理由だけわかっても対策は立てられません。 なぜ「回復の見込みがある」と判断されたのか、「異常所見」とはどういうものなのか、理由を細分化して検討しなければなりません。 そしてそれは何かしらの方法によって修正が可能なことなのか、不可能なのかを見極める知識が必要です。
例えば治療期間が短いと「回復の見込みがある」と見られがちです。治療の継続もしくは自然経過によって回復する可能性が高いと判断されるからです。むち打ち症の場合、6ヶ月は治療を継続すべきといわれていますから、後遺障害診断書も事故から6ヶ月目以降に書いてもらうべきです。
「異常所見」とは、主に画像検査や神経学的検査結果の異常を指します。これは検査内容によって認定上重視されるものとされないものがあります。 例えば画像検査で椎間板ヘルニアがあれば重視される可能性が高いですが、スパーリングテスト、徒手筋力テスト等の結果はあまり重要視されません。
「回復の見込みがある」とされた場合は、例えばそれを否定する医師の意見書を提出して異議申し立てをするという方法があります。 「異常所見がない」とされた場合は、他の検査を行なってみることが考えられます。
よくある間違い
- □非該当の原因を医師に相談する
- □画像に異常がないという事だけで異議申し立てを断念する
異議申立のチェックポイント
当事務所が異議申立の対策を検討するときのチェックポイントをいくつかご紹介します。
- □傷害の重症度(他覚的所見の有無など)
- □検査の有無、必要性
- □体質的要因
- □心因的要因
- □画像所見と臨床症状との医学的整合性
- □治療内容
- □診断名と自覚症状
- □診断書の記載の仕方
- □他の原因の可能性
後遺症の認定条件を揃える
等級が認定されるためにはいくつかの条件が揃うことが必要です。それは後遺症の性質や等級により異なりますが、「因果関係」「症状の程度」「症状の継続性」「他覚的所見」といったもののことです。
1.事故と後遺症の因果関係
「因果関係」とは事故と後遺症との結びつきのことをいいます。事故の時に捻挫をして、それが直接的な原因で痛みが残っているのかどうかがチェックされます。 例えば事故日から2ヶ月後にはじめて頚椎捻挫の治療のために通院をしたのでは因果関係は認められないでしょう。 異議申し立てはあきらめた方がよいと思われます。
以前から右手のしびれを訴えていた人が事故後に同じ症状を訴えても、やはり因果関係は否定される場合があります。
因果関係を証明するために、医師に外傷性との傷病名を付けた診断書作成をお願いすることは、多くの場合賢明な方法とはいえません。 例えばヘルニアがある時に「外傷性ヘルニアと書いてください」とお願いすることです。医学的証明が可能な場合は構いませんが、 証明が難しい場合は、たとえ医師が「外傷性」と診断書に書いたとしても、それを鵜呑みにして等級認定されるという事はないからです。
2.症状の程度や継続性
「症状の程度や継続性」については、症状が後遺障害といえるほど強く永続的に残っているといえるのかどうかチェックされます。 後遺障害といえるほどの支障がない場合や、今は症状があっても近い将来に治る見込みが高ければ、この条件は満たされないことになるでしょう。
「それじゃあ、とても強く痛むといって、長期間通院すれば後遺障害等級がとれるんじゃないかな?」
そう考えている人がいたとしたら、大きな間違いです。そのような不正行為が簡単にまかり通ってしまうほど、等級認定の審査は甘くはありません。故意に通院期間を延ばしたり通院の回数を多くすれば、どこかに矛盾が出てきます。それがきっかけで妥当な認定が行われなくなるリスクの方が高いものと考えた方がよいでしょう。
3.他覚的所見
「他覚的所見」の有無は、症状の原因について医学的に客観的な証明ができるのかどうかということです。「他覚的所見」自体の評価について、医師サイドと 認定サイドで考え方が異なることが多く、診断書で他覚的所見が認められていても思った等級とならないことはよくあります。
例えばストレートネック(頚椎前弯減少)、骨棘、ヘルニアなどの他覚的所見があっても、そのことのみで第12級あるいは第14級に認定されるということはありません。その後遺症で14級もしくは12級が認められるには、どのような他覚的所見が必要なのか、知っておくのは大切なことです。
こうした条件のうち、何が満たされていないのか、それはどうすれば満たせるのか、あるいは満たすことはできないのかを検討し、対策を立てます。
むち打ち症で、非該当を14級にするためのポイント
痛みの程度はどの位か
「痛いことは痛いのだけれど、これくらいの痛みでも、後遺症になるの?」という疑問を抱かれる方は多いです。痛みの強さを客観的に示すことは難しいので、痛みの強さについて、あまり具体的な基準はありません。私見ですが、普段はなんともなく、仕事で疲れたときに痛みが出てくるとか、夕方になると痛み出してだんだん不快になるといった程度の場合は、一般的には等級認定される可能性は低いです。
どのような資料が必要か
画像検査
XP、MRI、CT等の画像検査がありますが、一般的には追加の検査として選択すべきなのはMRIです。 MRIにより軟部組織の病変等が見つかる場合もあるからです。 ただしMRIを撮ってもほとんど意味のないケースも多いです。当事務所では「異議申し立てなら、MRIが必須」というような考え方はしておりません。 費用と時間もかかりますので、当事務所でMRI撮影をお勧めする場合は、その理由と有効性についてご説明して、お客様が撮影を希望される場合にのみご案内をしています。下の写真は頚椎を水平方向にスライスしたMRIです。
神経学的検査
スパーリングテスト、ジャクソンテストをはじめ、SLR、FNST、反射やMMT、握力、筋委縮、知覚検査など様々な検査方法がありますが、 手当たり次第に検査をすればよいというものではありません。一口にむち打ち症の後遺症といっても、首が痛む人、頭痛がする人、視力が落ちる人、手がしびれる人など症状は様々です。今までの治療経過や医師の見方も勘案して考えるべきです。因みに当事務所でこれらの検査をお願いすることは、むち打ち損傷に関してはほとんどありません。医師の立場でも、他の患者を待たせて診療を行っている状況で、治療に必要とも思えない検査を時間をかけてやることはできないと考える人が多いのではないでしょうか。
当事務所で神経学的検査や電気生理学的検査をお勧めする場合は、被害者の症状等を勘案して必要な検査方法を考え、 診断書に記載していただきたい内容も明らかにした上で医師に検査依頼するようにしております。
その他診断書
後遺障害診断書の記載内容が乏しく、それが原因で認定されていないと思われるケースでは診断書作成を依頼することがあります。 まずは後遺障害診断書から不足している情報を読み取ることが必要です。そしてその情報が医師にお願いすることで補足可能なものか、 検査を行う必要があるものか、そもそも補足不能なものなのかを見極めて対策を組み立てます。
なお、異議申し立てに使う診断書の内容については、医師に相談しても的確な答えが返ってくることは期待できません。「もう一回書いてください」とお願いしても「嘘は書けないので前に書いたことを強調するくらいしかできない」といわれることになるでしょう。認定サイドが求める情報を、 医師は知らないのが普通なのです。こういう事について書いて欲しいと具体的にお願いするのがコツです。
むち打ち症で14級を12級にするためのポイント
痛みの程度はどの位か
イメージとしては、痛みのためにしばしば仕事に重大な影響があるというような場合は、異議申し立てを検討されてもよろしいのではないかと思います。誤解しないでいただきたいのは、12級になるかどうかは、痛みの強さだけで決まるわけではないということです。どんなに辛くて、そのために退職してしまったというような場合でも、14級で妥当といえる場合もあります。逆に、強い痛みはあるけれども、仕事が全くできなくなるほど痛むというほどでもない場合でも、12級に認定される場合はあります。「痛みのためにしばしば仕事に重大な影響がある」というほど苦しんでおられるのであれば、手間隙をかけてでも、異議申し立てを検討されてみてもいいのではないかという、ひとつの目安だとお考えください。
どのような資料が必要か
12級認定に必要な資料
痛みなどの原因について、医学的に証明することが必要です。一般的にはMRIを撮影することが多いですが、CTが有効な場合もあります。 画像検査だけではなく、神経学的所見も合わせて証明すべき場合もあります。例えばMRIでヘルニアの突出が確認できる場合は、ヘルニアと症状を結び付けるような神経学的な所見をとるように努めます。
よく誤解されるのが、MRIで異常があると診断されたのに、12級にならなかったのはおかしいのではないか、異議申し立てをすべきではないかということについてです。12級が認定されるには、多くの場合でMRIなどにより異常が認められることが確かに必要ですが、異常があったからといっても、必ず12級になるということはありません。「他覚的所見」だけでなく「因果関係」という条件も揃わなければなりません。 事故に遭っていない人でも、MRIで脊椎に異常が認められるのはよくあることですので、その辺の事情を理解しておかないと、誤った判断をすることになります。
自賠責保険では14級、裁判で12級に認定された例
自賠責14級10号の「右上肢の握力低下、知覚低下」の後遺症は「12級相当と認められる」とした判例
受傷後最初に受診した病院でのエックス線画像上外傷による変化は認められなかったこと、その後受診した外科医院では 神経学的異常所見が認められず同日治癒と診断されていること、その後の治療状況は不明であるが、上記の経過に照らし、原告の自覚症状 について外傷との因果関係は捉え難いと判断し、その上で、なお、受傷時より項頸部 痛、頭痛、腰痛を訴えていることからこれらの症状の残存については否定し難いとし て、頸部外傷による項頸部痛について14級10号、腰部外傷による腰痛について1 4級10号、これらを併合して併合14級とするとの自賠責の判断に対し、 裁判所は、原告には頸椎について、症状固定時に、右上肢の握力低下、知覚低下 の異常所見が残存しているところ、これは、第6頸椎神経根障害によるものであると 認められる。したがって、その後遺障害の程度は後遺障害等級12級相当と認められると認定した。
頸部痛等の傷害を負う主婦兼パートの事案で、自賠責では14級だが、12級12号相当の神経障害が認められた判例
自賠責では、原告の後遺障害につき、14級10号に該当する旨の認定を行ったが、 本件事故前には原告は特に支障を感ずることなく化粧品の 荷詰の仕事に従事していたこと、原告は本件事故により転倒して路面に頭部 等を打ったものであること等前認定事実に照らすと、原告の症状は経年性の 頸椎椎間板変性に本件事故の影響が加わって生じたものとみるべきであるし、 原告の症状の推移及び治療経過に照らすと、その症状固定時期は前認定のと おり12級12号(局部に頑固な神経症状を残すもの)と認めるのが相当である。
医師に頼めば異議申し立て用の診断書を書いてもらえるのでしょうか
診断書を書いてもらえるとしても、異議申し立てのために必要な情報まで、医師が積極的に考えて書いてくれることまでは、通常は期待できません。 異議申し立てについて精通している医師もいますが、少数派です。 後遺障害等級認定は、損害賠償が絡んでいるため、診断名程度しか書かれていないような通常の診断書よりも詳細な情報提供が求められます。 診断書に何を書けばいいのかわからず、悩んでいるのが医師の現実の姿です。 また、大きな病院の医師は、作成しなければならない診断書が数十枚も溜まっていて、一枚の診断書をじっくり書いてはいられないということも多いのです。そのため頼み方を間違えると、診断書作成を断られたり、無意味な診断書を渡されたりすることになります。
異議申し立てに使う診断書には、症状や検査結果について必要な事項を詳細に記載してもらう必要があります。 当事務所では、医師に診断書に記載してもらいたい情報や、書き方を説明することによって、異議申し立てを成功に導くお手伝いをしております。