1. 加重障害とは
  2. 素因減額
  3. 加害者に後遺障害が残った場合の損害賠償請求権
  4. 人身傷害補償保険の後遺障害認定
  5. 新たな損害の発生
  6. 示談書の清算条項
  7. 労災の障害認定
  8. 社会福祉制度における障害認定
  9. 損保の保険約款における障害認定
  10. 健康保険とは
  11. 自由診療とは
  12. 診療報酬の計算方法

加重障害とは

交通事故で後遺症が残った被害者に、もともと自賠責保険の後遺障害等級に該当するような後遺障害があった場合は、どのように 評価されるのでしょうか。 自賠責保険では、既に障害のあった者が事故によって同一部位について障害の程度を「加重」し、より上位の等級に該当する場合を加重障害といいます。 そして加重障害の場合は、既存の障害分を控除して計算することとなっています。 例えば脳に第9級相当の既存障害があり、今回の事故によって第7級の加重障害となった場合は、第7級(1051万円) から第9級(616万円)の金額を控除し、435万円が支払われることとなります。ここでいう既存障害とは、交通事故を原因とするものに限らず、 また、それによる賠償金受領の有無も関係ありません。

既存障害がある場合の逸失利益

自賠責のこのような取り扱いに対して、一般の民事損害賠償では、加重障害から既存障害の労働能力喪失率を差し引いて逸失利益を計算するなどの 方法が取られています。例えば脳に第9級相当の既存障害があり、今回の事故によって第7級の加重障害となった場合は、第7級(56%) から第9級(35%)を引いて、労働能力喪失率を21%として損害計算をするということです。ただし一律にこのような計算方法が取られているわけではありません。

裁判例

道路を横断歩行中に乗用車に衝突された交通事故により脳挫傷の傷害を負い、痴呆等で第2級3号に認定された被害者につき、 既存障害として脳梗塞による12級12号の精神機能低下等の障害を負っていたことから、労働能力喪失率を第2級の100%から第12級の14%を 引いた86%として逸失利益を計算した例。

高速道路上で乗用車を運転中、車線変更をしてきた乗用車に衝突され頚髄損傷等で併合第4級に認定された被害者について、第9級の既存障害を認め、 逸失利益は92%-35%=57%で計算、後遺障害慰謝料も1000万円とした例。

素因減額

被害者に事故前から疾患(法的な意味で)が存在し、それが損害の発生や拡大に関係している場合は、過失相殺の規定を類推適用して 賠償額が決められる場合があり、これを素因による減額といいます。

  • (1)椎間板ヘルニア・・・2~3割の素因減額がなされる事例が多数あります。
  • (2)うつ病、PTSD・・・性格的な要因により素因減額される事例が多数あります。
  • (3)脊柱管狭窄・・・疾患とはいいきれず、素因減額されない事例も多数あります。
  • (4)骨粗鬆症・・・高齢者の場合は骨粗しょう症と診断されている率が高く、素因減額の適否という視点からは疾患とまではいえないケースが多いため、 減額されないケースが多くなっています。

椎間板ヘルニア

椎間板が後方や後側方に飛び出ることにより、脊髄や神経根を圧迫刺激し、関連する神経に痛みやしびれなどの症状を引き起こします。 よく問題になるのはヘルニアが事故の衝撃でできたものなのか、もともと事故前から存在していたものだったのかという事です。 これについては、よほど激しい外力を受けた場合はともかく、通常の追突事故程度では、 事故による外力で正常だった椎間板が一気にヘルニアになることはないと考えられています。 つまり事故後に椎間板ヘルニアと診断されるほとんどのケースでは、事故前からヘルニアは発生していたが、無症状だっただけという事になるのです。 しかし事故前からヘルニアが発生していたからといっても、そのことだけで必ず素因減額がされるわけではありません。 症状経過やヘルニアの程度等を総合的に見て、寄与度が判断されることになります。

骨粗鬆症

脊椎圧迫骨折の場合によく問題となります。骨粗鬆症の患者は軽微な外力でも骨折し、不相当に重い後遺症を残すことがあること、 転倒などの原因がなくても、椎体の脆弱性のために事故前から圧迫骨折が存在していることがあるが、 それが事故による骨折との見分けがつけにくいことなどが原因となっています。 骨密度検査により治療を必要とする病的な骨粗鬆症とされた場合は、素因減額の対象となり得ます。

疾患を持っていても、事故前は無症状だった場合

最高裁判例は病的素因を有していた被害者に対し「加害行為前に疾患に伴う症状が発現していたかどうか、 疾患が難病であるかどうか、疾患に罹患するにつき被害者の責めに帰すべき事由があるかどうか、 加害行為により被害者が被った衝撃の強弱・・・の事情によって左右されるものではない。」として、素因減額を肯定しています。

加害者に後遺障害が残った場合の損害賠償請求権

自らの過失で事故を引き起こした加害者が怪我をした場合に、加害者の立場では慰謝料の支払いや後遺障害の認定を受けることができないと考える人もいますが、 必ずしもそうではありません。相手のいない自損事故や、追突などで過失100%の加害者の場合は自賠責保険でも賠償金を受け取れませんが、 相手方に過失が認められるケースでは請求が可能なのです。

過失の大きい当事者(加害者)にも自賠責保険の損害賠償金が認められた例

  • (1)交差点での出会い頭事故で、90%の過失がある加害者
  • (2)センターオーバーをして事故を引き起こした加害者
  • (3)信号無視をして事故を引き起こした加害者

重過失による自賠責保険損害賠償金の減額

損害賠償請求が認められる場合であっても、過失の大きさに応じて自賠責保険は一律に減額される決まりになっています。

過失割合と減額率死亡・後遺障害傷害
7割未満減額なし減額なし
7割以上8割未満2割減額2割減額
8割以上9割未満3割減額2割減額
9割以上10割未満5割減額2割減額

手続きの進め方

一般的には事故被害者になると、後遺障害認定などの手続きは加害者側の任意保険会社が代行してくれます。 ところが過失の大きい加害者の立場となると、被害者側の保険会社は多くの場合手続きを代行してくれませんので、 自分で後遺障害認定などの手続きをしなければならなくなります。

手続きの進め方を大まかに説明すると、次のようになります。 (1)保険会社から自賠責保険用の診断書や診療報酬明細書の書式を入手します。 (2)それらを治療先で記入してもらい、自賠責保険会社へ支払い請求書や交通事故証明書などと一緒に送付します。 (3)症状固定となったら治療先で後遺障害診断書を記入してもらい自賠責保険会社へ送付します。

注意点

自賠責保険は自動車1台分につき、傷害分の保険金額は120万円までと決まっています。 重過失減額される場合もあることを考えると、治療期間が長引きそうな場合は、治療費などを温存するようにコントロールすることも必要です。 しかし無理に治療日数を減らしすぎると、認定されるべき後遺障害が認定されなくなるというリスクもあります。 後遺症が残りそうな場合は、通院中から計画的な治療を行うようにしましょう。

人身傷害補償保険の後遺障害認定

自賠責保険や対人賠償責任保険が「賠償責任保険」であることに対して、人身傷害補償保険は加入者自らが怪我や後遺症を負った場合にも支払われるという点で、その性質を異にしています。 後遺障害の認定基準にも違いがあり、例えば頚椎捻挫の後に見られる頚部痛などの14級9号の後遺障害は、自賠責保険では「医学的に説明可能なもの」であれば認定される余地がありますが、 人身傷害補償保険では「後遺障害とは、身体の一部を失いまたはその機能に重大な障害を永久に残した場合」とされているのみで、自賠責と同じ基準で運用されているわけではなく、 自賠責では認定されるような状態であっても、人身傷害補償保険では認定されないということがあります。 人身傷害補償保険で認定を受けるには、他覚的所見の存在を証明することが、自賠責の認定以上に重要となります。

新たな損害の発生

示談をすればそれ以上の損害賠償を求めることはできないのが原則ですが、 示談当時予期できなかった後遺症が後で発生した場合は、その分を請求できる場合があります。

▼昭和43年3月15日最高裁判例
一般に、不法行為による損害賠償の示談において、被害者が一定額の支払をうけることで満足し、その余の賠償請求権を放棄したときは、 被害者は、示談当時にそれ以上の損害が存在したとしても、あるいは、それ以上の損害が事後に生じたとしても、 示談額を上廻る損害については、事後に請求しえない趣旨と解するのが相当である。  しかし、本件において原判決の確定した事実によれば、被害者Aは昭和32年4月16日左前腕骨複雑骨折の傷害をうけ、 事故直後における医師の診断は全治15週間の見込みであったので、A自身も、右傷は比較的軽微なものであり、 治療費等は自動車損害賠償保険金で賄えると考えていたので、事故後10日を出でず、まだ入院中の同月25日に、 Aと上告会社間において、上告会社が自動車損害賠償保険金(10万円)をAに支払い、 Aは今後本件事故による治療費その他慰謝料等の一切の要求を申し立てない旨の示談契約が成立し、 Aは右10万円を受領したところ、事故後1カ月以上経ってから右傷は予期に反する重傷であることが判明し、 Aは再手術を余儀なくされ、手術後も左前腕関節の用を廃する程度の機能障害が残り、よって77万余円の損害を受けたというのである。  このように、全損害を正確に把握し難い状況のもとにおいて、早急に少額の賠償金をもって満足する旨の示談がされた場合においては、 示談によって被害者が放棄した損害賠償請求権は、示談当時予想していた損害についてのもののみと解すべきであって、 その当時予想できなかった不測の再手術や後遺症がその後発生した場合その損害についてまで、賠償請求権を放棄した趣旨と解するのは 当事者の合理的意思に合致するものとはいえない。これと結局同趣旨に帰する原判決の本件示談契約の解釈は相当であって、これに所論の違法は認められない。  論旨は採用することができない。 よって、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

被害者保護のための様々な理論構成

  • (1)例文解釈説
    加害者の刑事処分軽減のため、警察署長宛に上申した文書において、不動文字の放棄条項は、 当事者の真意を伴わない例文に属し、請求権の放棄があったと認めることはできないとした。(昭和45年9月17日東京高裁判決)
  • (2)公序良俗・信義則違反説
    経済的にひっ迫している被害者の法律的な無知を利用して加害者がなした示談について、 示談額のうち後遺症補償分が裁判所による算定額の半額に満たない著しい低額であることから、 本件示談は公序良俗に違反し、民法90条により無効であるとされた。(昭和53年11月30日大阪地裁判決)
  • (3)錯誤無効説
    被害者の傷害が2、3ヶ月の休養によって容易に全治する程度の軽微なものであることを前提とし、 その点につき何らの争いもなく締結されたものであるのに、事実はこれに反し、被害者の傷害が著しく重大なものであったから、 被害者の意思表示には、その重要な部分に錯誤があったものということができ、しかもこのような争いなき前提事実に右のような錯誤が存する以上、 民法696条の規定は適用されないから、本件示談契約は、 要素に錯誤があるものとして無効といわなければならないとした。(昭和40年1月27日東京地裁判決)
  • (4)権利留保説
    示談契約においては、権利放棄条項の有無にかかわらず、 示談当時に予想できなかった損害についての賠償請求権が留保されているものと解する考え方。(昭和46年1月20日名古屋地裁判決など)
  • (5)解除条件説
    示談当時に予想できなかった損害が生じたことを解除条件として、 示談契約あるいは権利放棄条項は効力を失うものと解する考え方。(昭和43年8月29日大阪地裁判決など)
  • (6)別損害説
    示談契約あるいは権利放棄条項の効力が及ぶのは、示談当時に予想された損害についてのみであり、 被害者は示談当時に予想できなかった損害に関する賠償請求権まで放棄してはいないと解する考え方。(昭和43年3月15日最高裁判決)

示談書の清算条項

示談書には「金○○○円を受領した時は、その余の請求を放棄する。」などの文言が入れられますが、これを文字とおり解釈すると、 後日後遺障害が発生した場合でも請求はできないということになってしまいます。しかし判例の傾向からすれば清算条項があっても 「示談当時予想できなかった損害」については、権利を放棄する条項の存在にかかわらず請求が可能とされていますので、示談後の後遺障害の発生については 結局請求が可能と考えられますが、被害者としては念のため示談書に、後遺障害が発生した場合は別途協議するとの文言を入れておいたほうが安心です。

もっとも全ての後遺症の発生について請求が認められるわけではなく、後遺障害の発生と事故との相当因果関係が問われるのは当然のことです。 将来の後遺症の発症を警戒し、「むち打ちはあとで出るから示談しないほうがよい」 「頭を打ったので心配だから、しばらく示談しない」というのは、ほとんどの場合で間違った考え方です。 外傷による症状は数日、場合によっては数週間でピークを迎え、それ以降は徐々に軽減していくと考えられています。 数カ月経過してから急に症状が重くなったり、別の症状が出てきた場合は、事故との因果関係は認められないのが普通です。 過度な心配をしなくて済むように、医師とよくコミュニケーションをとり、適切な時期に示談するようにしましょう。

労災の障害認定

一般労働者を対象とする災害補償制度です。ほとんどの事業所に加入義務があり、正社員のみならずアルバイト・パートも補償対象に含めます。 業務上の災害、通勤途中の災害による傷病により後遺障害が残った場合には、第1級から第14級に区分された等級に応じた障害補償が支給されます。

労災と健康保険との関係

業務上または通勤途中で交通事故にあった場合、労災が使えることになりますが、労災が使える場合には、それに代えて健康保険を使うことはできません。 事業主の都合で、労災ではなく健康保険を使うようにいわれる場合もあるようですが、労災隠しといって、禁じられていることです。

労災と自賠責保険との関係

業務上または通勤途中で交通事故にあった場合、労災が使えることになりますが、労災を使うか、自賠責保険を使うかは、被害者の判断に委ねられています。 一般的には先に自賠責保険を使い、自賠責保険がなくなった時点で労災を使うという手順を勧められるようです。後遺障害の認定は自賠責と労災は別々の制度ですので、 別に受けることができます。自賠責には自賠責用の後遺障害診断書がありますが、労災には労災の書式が用意されています。書式等は労働基準監督署で入手することができます。

社会福祉制度における障害認定

身体障害者手帳

別表に掲げる身体上の障害がある18歳以上の者で、都道府県知事から身体障害者手帳の交付を受けた者を身体障害者といい、 等級に応じた福祉サービスを受けることができるようになります。障害は第1級から第7級に区分されています。 手帳の交付を受けるには、各市町村の窓口で手続き方法の説明を受け、申請書や診断書を提出します。 医療の進歩などの事情により、障害程度が変化する場合があるため、ケースによっては再認定の手続きが必要な場合があります。

精神障害者保健福祉手帳

社会参加と自立促進を図ることを目的とし、一定の精神障害の状態にある者に交付されます。 交付を受けると各種の福祉サービスを受けることができるようになります。 統合失調症・気分障害・てんかん・高次脳機能障害等の器質性精神障害・発達障害などの精神疾患を対象とし、 1級から3級の等級に区分されます。手帳の交付を受けるには、各市町村で手続き方法の説明を受け、申請書や診断書を提出します。

損保の保険約款における障害認定

自動車総合保険(任意保険)に加入すると、被保険者証と一緒に、保険約款が送られてきます。ここに保険会社の後遺障害等級表などが記載されています。 保険約款に記載されている後遺障害等級表等は、自損事故保険、搭乗者傷害保険、無保険者傷害保険、人身傷害補償保険の支払いのために利用されます。 後遺障害等級表の内容は自賠責保険のそれとほぼ同じですが、認定基準には差があるため、自賠責では認定されるようなケースであっても、 人身傷害補償保険では認定されないという場合があります。認定結果に対しては、自賠責と同様に異議申し立てを行うこともできます。

健康保険とは

健康保険の種類

  • 政府管掌健康保険・・・小規模会社に勤める人の保険です。社会保険事務所で取り扱います。
  • 共済組合・・・国や自治体の職員、教師などの公務員の保険です。各共済組合が取り扱います。
  • 組合管掌健康保険・・・大きな企業に勤める人の保険です。各健康保険組合で取り扱います。
  • 国民健康保険・・・自営業者などの保険です。各市町村で取り扱います。

健康保険というものは、そもそも自分で怪我や病気になったときに備えて被保険者が保険料を支払って加入しているものです。 自分の不注意で転んで骨折をしたとき病院で保険証を出せば実際の治療費の3割程度の負担で済むのは、 自分または家族が保険料を支払っているからです。交通事故で加害者の過失が100%の場合は、事故による怪我の治療費などは 加害者が全て賠償すべきですから、通常は自由診療といって、健康保険を使わない診療が行われます。 もし交通事故の治療に健康保険を使う場合は、『第三者行為による傷病届』を保険者に提出する必要があります。 この届けを行なう事で、保険者は後で治療費を加害者に請求する事となります。

自由診療とは

自由診療は保険を使わない診療のことです。日本では国民全員が社会保険に加入し、健康保険によって受診する事が当たり前になっているので、自由診療が特殊なイメージがありますが、 アメリカ合衆国などでは公的な医療保険制度は確立されておらず、私的な医療保険に加入していない者は、高額な自由診療を受けざるを得ないのが普通になっています。 診療報酬は診療単価に点数を乗じて算出します。健康保険の場合は単価が10円と決められています。自由診療の場合の単価は特に制限がなく、病院によってまちまちですが、 過去の判例等から、現在では12円から20円程度の場合が多いようです。 健康保険では治療内容や治療費などに様々な規制が設けられています。例えば、医薬品は薬事法上の医薬品承認許可を受けたものしか使えません。 自由診療の場合には、そのような規制はありませんので、健康保険では認められない薬であっても使うことが可能なようですが、 交通事故でわざわざそのために自由診療にするということはあまり耳にしません。

交通事故で健康保険は使えるか

交通事故の場合は原則として健康保険は使わずに自由診療で治療が行われます。ですが、そのことにより被害者に不利益が及ぶようなケースの場合は 健康保険の使用を検討すべきです。被害者に不利益が及ぶというのは、色々なケースがありますので一概には言えないことですが、 次の場合には健康保険の使用を考えましょう。

  • (1)被害者自身の過失が大きい場合・・・治療費を圧縮することで自賠責保険から休業損害や慰謝料が受け取れる可能性があります。
  • (2)加害者が自賠責保険にしか加入しておらず、損害額が自賠責保険を超える恐れがあるとき・・・加害者の資力がなく、損害賠償を受けられないリスクを減らします。

健康保険を使う場合は、病院の窓口で保険証を提示して、あとで第三者行為による傷病届けをする必要がありますが、これらの手続きの途中で 『交通事故では健康保険は使えません』などと思わぬ抵抗にあう場合があります。交通事故での健康保険の使用の可否については、 非常に奥深い考え方があり、ややもすると『やはり健康保険は使えないのか』という具合に納得させられてしまいがちです。 それに対してどう対応すべきかというのはその時々によって異なりますが、事故でも健康保険を使えるという事は憶えておきましょう。

診療報酬の計算方法

診療報酬は、初診料など定額で定められている部分と、リハビリや投薬など点数が定められているものがあります。例えば器具による消炎鎮痛処置 が35点だったとすると、これに1点単価や技術加算などを乗じた金額の合計が診療報酬になります。 実際にはもっと細かい決まりがありますが、ここでは概要だけつかんでください。

1点単価

健康保険の場合は1点単価は10円と決まっていますが、自由診療の場合は病院によってまちまちです。以前は30円というところもありましたが、 今は12円とか20円~25円くらいが多いようです。 この点が保険会社から被害者への自由診療から健康保険への切り替え要求の原因になっています。 つまり、同じ病院で同じ治療を受けても、自由診療で1点単価が20円だった場合と健康保険を使って1点単価を10円にした場合とでは、 治療費が半分で済んでしまうという事です。 被害者としては治療費は任意保険会社が病院に直接支払ってくれることが多いので、あまり気にならないことが多いと思いますが、 加害者が自賠責保険しか入っていない場合などは、加害者に資力がないのでしたら健康保険の使用を検討するべきです。

ただし、何でもかんでも健康保険を使えばよいというわけではありません。損害の総額が自賠責保険の範囲内で収まる場合は自由診療でも通常のケースでは不利益は起こりません。 自由診療の単価が12円程度の病院もありますし、交通事故が原則は自由診療というのも理由があってのことですので、病院との関係などを総合的に考えて決めるといいでしょう