眼球の後遺障害
眼球に直接外傷を受けたり、頭蓋骨骨折に伴い視神経を損傷したりして、後遺症が残ることがあります。 視力低下、失明、眼球摘出、まぶたの欠損、斜視、複視、散瞳などの後遺症があります。
頚椎捻挫の症状として視力障害が起こる場合もあります。これは眼球や視神経に直接損傷を受けたわけではなく、 頚部の捻挫による損傷を原因として頚部交感神経に異常をきたし、その結果として眼の調整機能に異常が起きると考えられています。 そのため独立して眼の後遺障害として評価されることはなく、頚椎捻挫の後遺障害の一症状として評価されることになります。
【視力障害】
視力は万国式試視力表により測定した矯正視力となります。等級表の視力とは、眼鏡などによる矯正視力をいいます。人工水晶体が移植された場合も同様です。 「失明」とは、眼球を亡失したもの、明暗を弁じ得ないもの及びようやく明暗を弁ずる 事ができる程度のものをいい、光覚弁または手動弁が含まれます。
両眼が失明したもの | 第1級1号 |
1眼が失明し、他眼の視力が0.02以下になったもの | 第2級1号 |
両眼の視力が0.02以下になったもの | 第2級2号 |
1眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になったもの | 第3級1号 |
両眼の視力が0.06以下になったもの | 第4級1号 |
1眼が失明し、他眼の視力が0.1以下になったもの | 第5級1号 |
両眼の視力が0.1以下になったもの | 第6級1号 |
1眼が失明し、他眼の視力が0.6以下になったもの | 第7級1号 |
1眼が失明し、又は1眼の視力が0.02以下になったもの | 第8級1号 |
両眼の視力が0.6以下になったもの | 第9級1号 |
1眼の視力が0.06以下になったもの | 第9級2号 |
1眼の視力が0.1以下になったもの | 第10級1号 |
1眼の視力が0.6以下になったもの | 第13級1号 |
【調節機能障害】
調節力とは明視できる遠点から近点までの距離的な範囲をレンズに換算した値で、単位はジオプトリー(D)です。 眼は水晶体の厚みが変化することでピントの調整を行いますが、調節にかかわる筋等に障害が起き、調節力が減じる場合があります。 著しい調節機能障害とは、障害のないほうの眼の1/2以下に調節力が減じたものをいいます。
両眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの | 第11級1号 |
1眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの | 第12級1号 |
【運動障害】
著しい運動障害とは、注視野の広さが1/2に減じたものを言います。 複視とは網膜の対応点に外界の像が結像せずにずれている為に、ものが二重に見える状態をいいます。 ヘススクリーンテスト等により評価されます。検査結果はヘスチャートに記載されます。
正面を見た場合に複視の症状を残すもの | 第10級2号 |
両眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの | 第11級1号 |
1眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの | 第12級1号 |
正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの | 第13級2号 |
【視野障害】
視野とは眼前の1点を見つめていて、同時に見える外界の広さを言います。視野の測定はゴールドマン型視野計によります。V/4指標による8方向の視野の角度の合計が、正常の60%以下になった場合に視野障害ありとされます。
半盲症とは、注視点を境界として、両眼の視野の右または左半分が欠損するものをいいます。視野狭窄には同心性狭窄と不規則狭窄があります。視野変状には暗点と視野欠損があります。
両眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの | 第9級3号 |
1眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの | 第13級3号 |
外傷性散瞳は程度により妥当な等級(11級~14級)が準用されます。瞳孔が開いたままになる障害で、羞明を訴えます。
まぶたの後遺症
【欠損障害】
まぶたを閉じたときに完全に角膜を覆いえないものを「著しい欠損」、白目が見える程度のものを「一部に欠損」といいます。
両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの | 第9級4号 |
1眼のまぶたに著しい欠損を残すもの | 第11級3号 |
両眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの | 第13級4号 |
1眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの | 第14級1号 |
【運動障害】
まぶたの著しい運動障害とは、開閉に支障があり、開瞼時に瞳孔領を完全に覆うもの、または閉瞼時に角膜を完全に覆い得ないものをいいます。
両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの | 第11級2号 |
1眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの | 第12級2号 |
将来のコンタクトレンズ費用
複視などの後遺障害が原因で、生涯コンタクトレンズの使用を余儀なくされたようなケースでは、平均余命分のコンタクトレンズ購入費が損害として認められる場合があります。
聴力・耳介の後遺障害
【聴力障害】
聴力障害にかかる等級は、純音聴力レベルの測定結果と明瞭度を基礎にして、その程度により認定されます。例えば、両耳の聴力を全く失ったものとは、両耳の平均純音聴力レベルが90dB以上のもの又は両耳の平均純音聴力レベルが80dB以上であり、かつ最高明瞭度が30%以下のものをいい、両耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったものとは、両耳の平均純音聴力レベルが40dB以上のものをいいます。
両耳の聴力を全く失ったもの | 第4級3号 |
両耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの | 第6級3号 |
1耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの | 第6級4号 |
両耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの | 第7級2号 |
1耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話し声を解することができない程度になったもの | 第7級3号 |
両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話し声を解することができない程度になったもの | 第9級7号 |
1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話し声を解することが困難である程度になったもの | 第9級8号 |
両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話し声を解することが困難である程度になったもの | 第10級5号 |
両耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの | 第11級5号 |
1耳の聴力を全く失ったもの | 第9級9号 |
1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの | 第10級6号 |
1耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話し声を解することができない程度になったもの | 第11級6号 |
1耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの | 第14級3号 |
【耳鳴】
耳鳴りや内耳の損傷による平衡機能障害、耳漏、外耳道狭窄は、等級が定められていませんが、 その程度により妥当な等級(第12級または第14級)が準用されます。
当事務所で扱った案件では、歩行中に自動車にはねられ頭部を強打した事故で、既に耳鼻科での検査も受けていましたが、 耳鳴りについて非該当とされていたケースがあります。 ご依頼を受け、再度の検査と診断書の記載事項を医師に説明し、異議申し立てで12級に認定されたことがあります。 尚、頚椎捻挫でも耳鳴りやめまいなどの症状が出ることがありますが、耳の障害として認定されることはないと思われます。
【耳介の欠損】
耳介の大部分の欠損とは、軟骨部の1/2以上を欠損したものをいいます。1/2に達しないような欠損でも、外貌醜状として認定される場合があります。
【耳漏】(じろう)
耳垂れ。耳漏とは、外耳道から病的な分泌液が漏出することです。程度により12級~14級相当とされます。 交通外傷により鼓膜を損傷し、炎症を起こすと耳漏が起こります。聴力障害と同時に起こることがおおいですが、聴力障害を伴わない(程度が低い)場合であっても、 単独で相当等級が認定されます。
1耳の耳殻の大部分を欠損したもの | 第12級4号 |
嗅覚・鼻の後遺症
【機能障害】
機能障害とは、鼻呼吸困難または嗅覚脱失をいいます。嗅覚はT&Tオルファクトメータ やアリナミン静脈注射により検査されます。嗅覚脱失は、頭部外傷により脳や嗅神経を損傷して起こることも おおく、鼻自体を欠損していなくても、認定される場合があります。 鼻を欠損し、両側の鼻呼吸困難または嗅覚脱失となった場合は第9級5号となりますが、 欠損のない機能障害は程度により12級や14級が準用されます。1側性の嗅覚脱失では後遺障害は認定されません。
【欠損障害】
鼻の欠損とは鼻軟骨部の全部または大部分の欠損をいいます。鼻の欠損は、外貌醜上と捉えることもできます。そのため上位等級である第7級に該当することとなるでしょう。
鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの | 第9級5号 |
口・歯牙の後遺障害
【咀嚼及び言語の機能障害】
咀嚼機能を廃したものとは、流動食以外は摂取できないものをいい、著しい障害とは、粥食またはこれに準ずる程度の飲食物以外は摂取できないものを言います。 単なる障害とは、固形物の中に咀嚼できないものがある場合などをいいます。 言語の機能を廃したものとは4種の語音(口唇音、歯舌音、口蓋音、喉頭音)のうち、3種以上の発音不能のものを言います。著しい障害とは2種の発音不能のもの または綴音機能に障害があるため、言語のみを用いては意思を疎通する事ができないものをいいます。単なる障害は1種の発音不能をいいます。
咀嚼及び言語の機能を廃したもの | 第1級2号 |
咀嚼又は言語の機能を廃したもの | 第3級2号 |
咀嚼及び言語の機能に著しい障害を残すもの | 第4級2号 |
咀嚼又は言語の機能に著しい障害を残すもの | 第6級2号 |
咀嚼及び言語の機能に障害を残すもの | 第9級6号 |
咀嚼又は言語の機能に障害を残すもの | 第10級3号 |
【歯牙の障害】
歯科補綴を加えたものとは、喪失または著しく欠損した歯牙に対する補綴をいいます。 インレー、ポスト・インレー、3/4冠(スリークォータークラウン)などは含まれません。 また、喪失した歯牙が大きいか又は歯間に隙間があったため、喪失した歯数と義歯の歯数が異なる場合は、 喪失した歯数により等級を認定することとされています。 1~2歯のみの場合は、自賠責の後遺障害としては認定されません。
乳歯や親知らずは、認定の対象とはなりません。
14歯以上に対し歯科補綴を加えたもの | 第10級4号 |
10歯以上に対し歯科補綴を加えたもの | 第11級4号 |
7歯以上に対し歯科補綴を加えたもの | 第12級3号 |
5歯以上に対し歯科補綴を加えたもの | 第13級5号 |
3歯以上に対し歯科補綴を加えたもの | 第14級2号 |
味覚障害
味覚障害は、程度により12級又は14級が準用されます。味覚検査試薬を用いた濾紙ディスク法により判定します。 味覚障害は回復していく場合が多いので、治療終了から6ヶ月をおいて等級認定を行うものとされています。
【その他】
嚥下障害(3級~10級)、声帯麻痺(12級)による著しいかすれ声などは程度に応じて妥当な等級が準用されます。
将来の義歯費用
事故で歯を欠損するとブリッジなどの義歯を入れますが、義歯は永久に使用できるものではなく、寿命があるものと考えられています。 一般的には10年程度を耐用年数と考え、平均余命までの交換回数分の義歯交換費用を請求することが可能です。例えば平均余命まで35年間という人の場合は、 10年後、20年後、30年後の3回分の将来の義歯交換費用の請求が可能です。