1. 警察に提出する診断書
  2. 自賠責保険会社に提出する診断書
  3. その他の医療情報
  4. 医師を選ぶ

警察に提出する診断書

人身事故届けをするためには医師に診断書を書いてもらいますが、それには傷病名などのほかに、治療期間が書かれています。 打撲や捻挫などの場合は大抵10日から2週間となっています。たまに事故直後の被害者の方からご質問をいただきますが、 これはその診断書に書かれている期間しか治療できないとか、その期間で治るのが普通とかいうことではありません。 もちろんその期間で治るケースもあるでしょうが、多くは実態にそぐわない期間が書かれているのではないかと思います。

それでは何故そのような短めの期間になっているのかというと、次のような規定の影響もあるようです。
道路交通法施行令別表2では、交通事故の行政処分の付加点数として次のように定められています。
『治療期間15日以上30日未満の軽症事故では、責任の程度が重い場合は6点、軽い場合は4点。 治療期間15日未満の軽症事故では、責任の程度が重い場合は3点、軽い場合は2点。』

治療見込み期間が長くなると、加害者の処分が重くなるということが意識されているようです。

自賠責保険会社に提出する診断書

人身事故の場合は、警察に提出する診断書以外にも、自賠責保険の請求に必要な診断書を病院で書いてもらいます。警察に出すものは病院に備え付けの診断書の様式で 構いませんが、自賠責保険請求用の診断書は書式が決まっており、病院に備え付けていない場合が多いです。加害者が任意保険に加入している場合は、任意保険会社の人が 自賠責保険請求の手続きを『一括払い』という形で代行してくれるケースがほとんどですが、 自分で自賠責保険を請求する場合は診断書の書式を病院に持って行ったりする必要もあります。

自賠責保険の請求のためには、診断書とセットで診療報酬明細書というものも病院で書いてもらいます。 この書類には何月何日に通院したとか、どのような検査や治療を行なったのかなどが詳細に記入されていますので、後遺障害認定を受ける際にも参考になる資料です。 診断書や診療報酬明細書の発行は有料ですが、その料金は自賠責保険に請求できます。

健康保険等で受診した場合は、自賠責保険用の診断書を書いてくれない医療機関もあります。

その他の医療情報

その他には、勤務先を欠勤するために書いてもらう診断書や、被害者自身が加入している傷害保険の請求のために書いてもらう診断書の様式などがあります。 死亡事故の場合は死亡診断書が作成されます。後遺障害等級認定のために後遺障害診断書が作成されます。 これらは単純に医師に作成を依頼すれば医師の考えで書いてもらえますが、 後遺障害認定の異議申し立てをする場合に作成してもらう診断書は、医師も何を書けばよいのかわからないのが普通です。 ただ「異議申し立てに使うのでもっと詳しく診断書を書いてください」と頼んでも患者側の意図が伝わらないため、 情報不足の診断書が発行されているケースが多いです。それを防ぐには、記載内容を具体的に絞って依頼する必要があります。

診断書の交付義務

医師は正当な理由がない限り、患者からの診断書の交付要求を拒否することはできません。一方で、診断書は診察をしなければ交付することができません。 そのためか、診断書の交付を依頼すると「診察してから」といわれることがあります。現時点での傷病の状態について診断書を要求する場合は診察が必要ですが、 過去のある時点(症状固定時など)についての診断書を求める場合は、必ずしも診察を受ける必要はありません。「カルテを参照し作成した」旨を記載することで、 問題は回避できます。

被害者が要求する内容では診断書を作成できないとか、診断書に何を書けば被害者の期待にこたえられるのかわからない等の理由から、 診断書の作成を断られる場合があります。こうした場合に医師法の診断書交付義務を持ち出してもよい結果は得られません。 傷病名のみなどの、意味のない診断書の交付しか受けられない可能性があります。

診断書の例

診療録(カルテ)

医師法第24条において診療録の記載義務と5年間の保存義務が規定されています。記載内容については詳細規定はなく、 単に「診療に関する事項」とされているのみです。受傷等の日時および原因、症状、所見、検査結果、治療内容温、圧、拍、などが記載されるのが一般的ですが、 医師によって書きこむ情報量に差があります。診断書はカルテの記載に基づいて作成されるため、カルテの情報量が診断書の情報量を左右する場合があります。 カルテは本来、患者に見せるために作成するものではありません。関連書類として臨床検査記録、看護記録、手術記録、入院患者の外泊簿等があります。

診療録(カルテ)の例

意見書

その名のとおり医師の意見を述べる書面です。先に作成した診断書の補足意見を記載する場合などに用いられますが、 診断書の用紙を用いて作成される場合もあります。「保険会社の人に、異議申し立てするなら医師の意見書を出してください、といわれたのですが、 意見書とはどういうものですか」というご質問をいただく場合がありますが、特別に診断書と異なる書式があるというわけではありません。 医師に「意見書を書いてください」といっても戸惑ってしまう事が多いので、どのよう内容について意見が欲しいのか、診断が欲しいのかなどについて、 明らかにしてからお願いしたほうが、よい結果が得られます。

医療照会書

医師に対して患者の治療状況などを問い合わせる文書です。別紙の回答書に回答が記載される場合もありますが、質問と回答欄が一体となった「照会書兼回答書」 という書式が利用されることが多いようです。質問内容は個別に考えられることが多く、的確な質問をしないと回答も曖昧なものしか得られません。 保険会社が症状固定や就労可能性について照会するのに利用されることが多いです。 質問の仕方が曖昧なこともあってか、しばしば患者の職業をよく理解しないままに就労可能日を記載している回答書を見かけます。

医療照会書の例

同意書

患者以外の第三者が、直接医療機関から医療情報を入手するのに必要な書面です。医療機関によっては独自の書式を用意しており、 それ以外の書式では受け付けてくれない場合もあります。

同意書の例

鑑定書

専門家が知識や経験に基づき、鑑定が必要な事柄について分析し、結論を導き出して書面にまとめたものです。 後遺障害の存在や素因との関係、死亡原因などについて、検査成績や画像などを根拠に作成します。 結論だけでなく、その結論を出すに至った経緯を明らかにすることが大切です。

身体障害者診断書・意見書

身体障害者福祉法により定められています。身体障害者診断書・意見書の記載内容により障害等級が1級から7級までに等級付けされます。 都道府県ごとに書式が用意されています。

労災保険の障害給付支給請求書・診断書

労災による障害等級の認定のための書式です。自賠責保険の後遺障害診断書とは異なる書式です。労基署で入手できます。

成年後見制度

事故の後遺症で判断能力が無くなり、成年後見の申し立てをする場合に提出します。診断書書式と作成のためのガイドラインが裁判所で入手できます。

医師を選ぶ

同じ後遺症が残っても、医師の対応によって等級が認定されたり、されなかったりという事が起こっています。これは医師の責任ではなく、 認定制度の抱える問題点なのですが、現実に医師の診療姿勢などが等級認定に影響を与えている以上、被害者としては診てもらう医師を選ぶ必要があります。

後遺障害の知識があり、被害者に対して親身になってくれる人先生に診てもらえればありがたいですが、 現実には近隣でそのような人を通院開始前に探し出すことは困難です。 ですが、色々な病院に通院してみて「この先生は大丈夫だろうか」などと思い悩むことは杞憂にすぎません。 ほとんどの医師は誠実に必要な診療をしてくださいますので、「特別によい先生」を探すことより「避けた方がよい先生」 にあたってしまったら、転院を検討するというように考えてください。

それでは避けた方がよい医師とはどういう人のことでしょうか。 評判の良い先生でも、その被害者個人には合わないという事もあります。普段人の話を聞かず、すぐに起こるような人でも、治療と診断書は きっちりと仕上げてくれるという場合もあります。だから簡単ではありません。 当事務所が経験した中では「患者の話を聞かない。問診をしない」「話し方が面倒くさそう」「すぐに怒る」 「気のせい。安静にしていればいつかは治ると、取り合わない」というような医師の多くは、 診断書を書きたがらなかったり、書いても内容が淡泊すぎたり、内容が画像の貸し出しを嫌がったりというような傾向が強いです。